22. それでライバルってわけか
ぱちぱちと火のはぜる音と、虫の音だけがきこえてくる静かな夜だった。
目的となる場所は遠く、途中、日が暮れる前に野営によさそうな場所を見つけ腰を落ち着けた。
毛布に包まったオルニスが静かな寝息を立てている。その横でセレナと二人、焚き火を囲みながら周囲への警戒に当たっていた。
黙っていると寝てしまいそうだったので、適当な話題を選んでは話を振る。
クエスト中、セレナと行動を共にすることはあったが、こうして腰を落ち着けた状態で二人っきりというのは初めてであった。
夜は長く、互いに話すことも減ってきたとき、オルニスが寝返りをうち毛布がはだけた。
セレナはまるで母親のように優しくかけなおしている。
「なあ、オルニスのことなんだが、セレナとはどんな関係だったんだ?」
「それはな、ライバル、ということになってる」
セレナは苦笑しながらその言葉を口にする。そして、彼女が知るオルニスについて語りだした。
「冒険者ギルドに入ってきたとき、かの魔術学園の卒業生ということで注目を集め何人かがパーティーに誘ったらしいんだ」
ノースガンドの魔術学園といえば王国でも有名で、卒業生は魔術のエリートといわれている。だいたいは王国に公職についたり、研究機関へと入るはずなのだが、よりにもよって冒険者なんてわけがわからない。
「しかし、あの子はどうにも人と折り合いをつけるのが苦手らしくてな、ソロで活動を続けていた」
癖のある冒険者はおおく、あいつ自身も相当プライド高そうだし上手くいかなかったのだろう。
「魔術の腕は高く一人でもクエストをこなせていたようだが、あるとき大ケガをして倒れていたんだ。偶然、通りかかって助けることができた。これに懲りてパーティーを探すようになるかとおもったのだが、それでもソロで活動し続けていたんだ」
「意地を張っているのか、あまり長生きできるタイプじゃないな」
「まあな。それでみかねたギルマスからも頼まれてな。あの子をそれとなく手助けしてやってくれって」
「だけど、あいつはそんなもの素直に受け取るタマじゃないだろ。あー、なるほど、……それでライバルってわけか」
「そうだな、察しの通りだ。あの子を炊き付けて同じクエストを受けさせてから、形式上だけでも、といって私とパーティーを組ませたんだ」
「なるほどな。苦労してんな」
「ははっ、その甲斐もあって冒険者のイロハを教えることができたよ。他の連中とも多少は打ち解けて、パーティーを組んだりもしていたな。それでもう安心かと思っていたんだが……」
「追いかけてきちまったわけか。ずいぶんとなつかれていたんだな」
オルニスの寝顔を見るセレナの顔は優しげだった。
セレナにとっては、年の離れた手間のかかる妹といったところか。わざわざ北の地からここまで追いかけてきたものを邪険に扱えないのだろう。
「ところで、セレナ、ひとつ聞きたいのだが、いいか?」
「なんだろうか、いってみてくれ」
「オレが前に出していたパーティー募集のことなんだがよ、ギルドにたのんでから3日目でセレナは来たよな。ノースガンドの街から来るにしてはちょっと、いやむしろ、かなり早くないか?」
「ああ、それは騎竜便で送ってもらったからな」
「騎竜便!? それはまた贅沢なことを」
騎竜便とは、馬車よりもさらに急ぎのときに使うもので、訓練された飛竜乗りに送ってもらうものだ。飛竜乗りの存在は希少であり、その費用は一般の平民が1年につかうほどの生活費に相当する。
「なんで、そこまでして?」
「うーん……それはな……」
セレナは口ごもり気恥ずかしそうに眼をそらす。
「ライルの名前を見て、いても立ってもいられなくなってな。詳しい理由については……あまり聞かないでやってくれ……」
なんだろうか? オレの名前を見てすっ飛んでくるなんて、どんな事情だ。
じっとセレナの顔をみながら過去の自分との関係を思い出そうとする。
「お、おい、そんなに見ないでくれ」
セレナが顔を赤らめながら背中をむける。焚き火のせいかはわからないが、耳元まで赤くなっているのが見えた。
「ああ、わ、悪い」
そのうち思い出すか、セレナから聞くこともあるだろう。




