21. チビっていうなぁ
早朝、朝焼けに染まる街道を進んでいた。湿り気を帯びひんやりとした空気が心地よい。
この日、目的の魔物が生息するエリアまでは時間がかかるため早めに出発したのだが
「うう゛う゛、ねむいー。なんで、こんな朝からでるのよぉー」
後ろを歩くオルニスにはいつものうるさいぐらいの元気はなく、眠そうに目をこすりながら歩き、その歩みは遅い。
それに、オレやセレナと体格差もあるオルニスに合わせて進むと予定よりも遅れそうであった。
「やる気ないなら置いていくぞ」
「わかったわよ、早く進めばいいんでしょ」
すねたようにくちびるをとがらせ、大またで進んでいくが、その一歩はセレナの一歩とたいして変わりがなかった。
「おい、オルニス」
「なによぉ?」
「おんぶしてやろうか?」
「ばっ、バカにしてんじゃないわよ! これでもわたしは16歳でもう立派な大人なのよ!」
16歳と聞き、オルニスの体を見てみる。その背はセレナの頭一つ分小さく、丸みを帯びた顔の輪郭と、ぴんぴんとはねた寝癖が余計に幼さを感じさせた。
「あー、もう! 見てなさいよ。創成の法則に従い、出でよ!」
オルニスが杖を掲げ、その先端にはめられた紅玉から複雑な紋様が浮かび上がった。
すると、地面の土がつみかさなっていき、大人の男を優に超える無骨な人形ができあがった。
「どうよ! わたしのゴーレムは。これなら、移動もラクチンね。あーっはっはっはっ!」
土人形の肩にのったオルニスが高笑いを上げている。
「土魔術か? いや、それにしては初めてみるものだな」
「ふふん、せいぜい驚くといいわ。錬金術と土魔術を組み合わせて作られた、このゴーレムに! あっ、いったぁ……舌噛んだ」
ずしんずしんと地響きを立てながら歩くゴーレムの上にのるオルニスは、涙目で口元を押さえていた。
どうやら、セレナのいったとおり魔術師としての腕前は高いようだった。これなら、十分な距離を稼げるだろう。
しかし、その数十分後
「うう……、酔った……」
青い顔をしたオルニスがオレの背にしがみついていた。馬でさえ上下運動が激しいというのに、あの巨体の上にのっていれば、それはもうかなりの振動がくるだろう。
「ライル、代わろうか?」
「大丈夫だ。荷物は空間魔術で全部しまったしな。こいつも小さいし、軽いもんだ」
「……チビっていうなぁ」
弱々しい声が背中ごしにきこえるが、抗議とよぶにはか細い声だった。
よいしょと掛け声をかけながら背負いなおすと、街道を進んでいくのであった。




