2. 絶賛パーティー募集中だ
冒険者ギルドの掲示板に張り出したパーティー募集の紙を見つめる。
『パーティー募集、経験問わず。当方、魔術および剣を扱う中衛』
最後にライル・ガランディアとオレの名前が書かれている。
いつまでも落ち込んでいてもしょうがないと、知り合いに声をかけるが空振りばかりで、ギルドにたのんで募集を始めた。
しかし……、反応は芳しくなく、誰もこないまま今日で3日目となる。
受付のギルド職員からは募集用紙を見ている人間がちらほらいたとはきいていたのだが、オレに声をかけようというものは現れなかった。
10代半ばの頃、村を出て冒険者となって以来、そこそこの功績を重ね、中堅冒険者になったという自負はあった。
何人か新人の指導もまかされることがあり、他のギルド員からも信頼されていると思ったのだが、何が悪いのだろうか……。
もしや、募集要項が悪いのかと思い、ギルド職員に相談をしてみると
「ライルさんなら、一人でも十分クエストこなせますよ」
「きっと、みんなライルさんに気後れしているんじゃないのですか」
などとこちらを気遣うような言葉ばかりで、はっきりしたことは言ってくれなかった。
仕方がなく、一人でこなせそうなクエストを受注しようとしたところで男の怒鳴り声が聞こえてくる。
「なぜだ! 前回も同じ依頼を出したはずだろう。今回は受けられないという理由はなんだ!」
男は顔を赤くしながらがなり声を上げ、受付の職員が懸命に対応している。リリーという年若い女性職員で、人当たりもよく仕事も丁寧なため他の冒険者たちからの受けもいい。
そのせいか、リリーを困らせる男に対して敵意が向けられていたが、男はまるで気づいていないようだった。
「申し訳ありません。ロックレプタイルの生息地域では、現在ワイバーンの繁殖期に入っているため、依頼を受けることができません」
「だったら、この中にいる奴ら、私から依頼を受けないか! ロックレプタイル1体につき、金貨1枚払おう!」
男は革袋を掲げ、金貨を取り出してみせる。
しかし、ギルド会館にいるものは誰一人として相手しようとしなかった。
ロックレプタイル自体は小型の魔物で大した危険はなく、通常であれば相場の倍近くの値段であったが、それは安全が確保できた場合であった。
この場にいた冒険者たちは、バカにした表情で男を見ている。そんな白けた雰囲気を感じ取った男は、再びリリーに、無理やりにでも依頼を受注させようと詰め寄るのであった。
「おい、おっさんよ」
横から割って入ったオレを、男がいらだった目つきでにらんでくる。
「なんだ、おまえは、私は今忙しいのだ」
「やってやろうか? その依頼」
「本当か!?」
「ライルさん! いけません。危険です。今、あなたはパーティーメンバーがいないのですから」
「一人……なのか……」
「絶賛パーティー募集中だよ。悪いか、この野郎」
オレがソロだと知り、途端に男ががっかりした表情をする。
そこにさらに声が割ってはいる。騒がしいギルド内で、不思議とよく通る声で皆の注目が集まる。
「今パーティー募集中と口にしたが、あなたがライル・ガランディア殿か?」
振り向くと、そこには、募集の張り紙を手にした女性が立っている。
「私はセレナ・バートランド。ぜひとも仲間に入れてくれ」
銀髪の髪に抜けるような白い肌、こちらに近づいてくる足取りは隙がなく、美しい一匹の獣のようであった。