15. 台所にたつセレナの後姿
「本当になにもないのだな」
我が家にやって来たセレナが台所を前に、どこか感心するようにつぶやいた。
「飯は外で食べて、帰って寝るだけだからな」
「私も似たようなものだな。料理はほとんど休みのときの趣味のようなものだ。あとは、あの携帯食料はどうにも口に合わなくてな」
携帯食料とは小麦のパンを焼いて押し固めたもので、表面はぱさぱさと乾き、口にいれるとボソボソした触感でのどがつまりそうになり、あまり評判はよくない。
「ああ、まずいよな、あれ。でも、腹はふくれるから、普段でもたまに食べているな」
「ライル……、これは張り切って料理しないとな」
セレナはなにか言いたげな顔をするが、エプロンを服の上からかぶせて料理にとりかかった。
ときどき、魔術で火を起こすのを手伝ったり、味の具合を確かめるだけで、セレナの後姿を見ているだけだった。
普段使われることのない台所に立つ、エプロン姿のセレナ。料理のために髪をひとまとめにくくり、白いうなじが見えている。
てきぱきと段取りよく動く様は見ていて小気味よかった。
「できたぞ」
セレナがくるりと振り向くと、ぼーっと見ていた意識が戻ってきた。
できあがったロックレプタイルのスープの味はとてもよかった。店のものとはちがうが、食べているとほっとする味だった。
素直においしいと伝えると、セレナはうれしそうに笑ってくれた。
「今日はありがとうな」
「こちらこそ、台所つかわせてもらってありがとう」
セレナを見送り玄関扉を閉めると、当然のごとく誰もおらず中はしんと静まっている。
なぜだか気分が落ち着かず、ソファーに身を投げ出すようにして寝そべる。
テーブルの上には酒瓶とグラスがひとつ。
度数の高い蒸留酒の入った酒瓶を傾けると、琥珀色の液体がグラスを満たしていく。
「結婚ねえ……ないない……」
この静かな空間が好きな自分は、やはり独身主義を貫き通すのだろう。




