13. 今日はセレナと会うことになっている
冒険者とは基本自由業のようなものである。
金がなくなったら狩りに出かけて、報酬を生活費にあてる。いつ働いても、いつ休んでもいい、その日暮らしである。特にソロで活動しているやつはその傾向が強い。
一方で、パーティーを組んでいるとそれぞれの都合を合わせるため、予定を組むようになる。
セレナとも休息日と活動日を取り決めており、今日は予定のない日であった。
そのはずだが、今日はセレナと会うことになっている。
例のロックレプタイルのスープを作るということで、セレナが我が家にやってくる。
正直、あのときはただの世間話程度かと思っていたのだが、隣街からの帰りに「いつがいいか」と聞かれて、特に考えることもなく「じゃあ明日」と答えてしまった。
そして現在、オレは台所の前に立っている。
見事になにもない。備え付けの食器棚があるが、中身は空っぽでうっすらと埃がたまっている。
冒険者用の道具を集めていくうちに宿屋では手狭になり、一軒家を買い取って暮らしているが、台所などほとんどつかったことがない。
飯はたいてい屋台や食事処で済ませていた。外に出るのがめんどうなときは、買いだめしておいた携帯食料ですませている。
「どうすっかなぁ」
セレナがきても、台所には包丁すらないとはいえない。
広場で開かれているバザールにて、露天商をめぐりながら調理道具を探していた。
しかし、ついぞ料理などしたことのない自分にとってはどれがいいものかわからない。調子のいい商人はあれこれと言葉巧みに売りつけようとするが、その言葉を鵜呑みにして購入すればどんどんと押し付けられていくだろう。
いっそのこと、セレナと一緒に買いにくればいいんじゃないかと思い始めた頃、都合よくセレナの姿を見つけた。
特徴的な銀髪は遠めでもよく目立っていた。今日は狩りのときとはちがって、ケープを肩にかけゆったりした格好だった。
道行く男たちが振り返り彼女の後ろ姿に視線を送っている。
やはり、誰から見ても美人なのだろう。
その上、落ち着いた性格で気遣いもできる。なぜ、これでいい相手がいないのかが不思議である。
セレナに声をかけようとしたところで、はしゃいで前を見ずに走っていた男の子がオレの脇を通り抜け、セレナの足にぶつかった。
「大丈夫か?」
こけてしりもちをついた男の子に、セレナが手を差し伸ばす。
ぶつかった痛みと転んだことが驚き、男の子はセレナの顔を見上げたまま固まっている。しぱしぱと何度かその丸い瞳を何度かまばたかせたあと、立ち上がることなく不安げに周囲を見回しはじめた。
「ママーッ! どこー!」
「お、おい、どうしたのだ」
セレナは泣き始めた男の子を前におろおろとしだす。子供の相手はなれてないらしく、手助けのために近づく。
「おい、ガキんちょ」
「だれー?」
鼻をぐずらせながら見上げてくる男の子の体を持ち上げて、肩車した。
「ほら、これで遠くまで見えるだろ。おまえの母ちゃんはいないか?」
「わぁ、たかーい」
キャッキャとはしゃぐ男の子が落ちないように足をしっかり押さえてやる。
周囲の人間を見ても特に反応がなく、近くにはいないようだった。
「ライル、どうしてここに?」
「たまたまな。こいつの親探しならやっとくから、あとはまかせておけ。おまえさん、このあたりの土地勘はないだろ」
「そういうわけにはいかない。私も一緒に探そう」
生真面目な性格なのはわかっていたので、なんとなくこうなると予想はしていた。




