1. 冒険者にとって一番つらいこと
村を出て、街の冒険者ギルドの門戸を叩いて10余年。冒険者とは何かって聞かれたら、例えばダンジョンを探索してお宝を探したり、人の行かない危険な場所の調査を頼まれたり、魔物を倒して皮とか牙や角の素材を持ち帰ったり……
まあ、ぶっちゃけると何でも屋だ。危険と隣り合わせだが、その分、稼ぐことができる。
冒険者生活の中で、一番困ることは? なんてきかれたとしたら、10年以上の経験の中からこう答えるだろう。
クエストの討伐対象の魔物が手ごわいこと?
道中、魔物を警戒して寝ずの番をすること?
予想外の霧で視界をふさがれたり、崩落で道を通れないこと?
そんなものは事前に情報を集めて、準備をすればいい。現場での対応は経験を元になんとかなるものだ。
がんばり次第でなんとかなることばかりである
だが、しかし―――
それでも、どうにもならない問題というものはある。
そう、例えば……、人間関係とかな……。
「ボクたち結婚します!」
「ライルさん、いままでお世話になりました!」
場所は酒場、魔物の討伐クエストが終わり杯を交わそうとしたところだった。
目の前に座るのは、若い男女の冒険者。
二人とも新米冒険者で、危なっかしい様子を見てパーティーに誘ったのであった。
二人とも素直な性格なため、こちらの注意をよく聞いてくれた。最近ではそれなりに連携も形になってきたところだった。
今日も、中堅冒険者向きのクエストに向かった帰りで、その成長具合に感心していたところだった。
いいパーティーになってきたなと思っていた矢先、二人が神妙な顔をしながら話があるといい、現在へといたる。
二人は冒険者生活でためた資金を元手に店を開くらしい。
精一杯笑顔をとりつくろいながら、彼らの新しい門出を祝福した。
何度もお辞儀をする彼らを見送り、一人残された酒場にてちびちびと酒を飲む。
「はぁぁぁぁ~~~~」
深いため息がついてでる。
なんとなく、気づいてはいた。
二人とも村の口減らしのために冒険者となったという境遇で、年も近い二人が惹かれあっていく様子に。
フリーの日には、街で手をつなぎあい楽しげな笑顔で歩いていたこともあった。
そういうわけで、彼らの抜けた後、パーティーはオレ一人となりソロになったのだった。
ついでに、実生活の方も生まれてこのかた独身である。