あの頃(その二)
やばい。逃げろ。
三人同時に木陰から全力で逃げ出した。
自転車に跨がるが早いか、私達は来た道を一目散に下っていった。無我夢中である。
追ってきたらどうしよう、どうしよう。熊本君は恐怖に泣いていた。私も膝がガクガク震えるのを止められなかった。
山を下り、スタート地点迄戻り、三人肩で息をしながら立ち尽くしていた。追ってくる気配はない。安堵に深い疲労を覚えた。
振り返ると、山は青く黒く既に夕闇に沈もうとしている。
その陰鬱ともいえる景色を冷えてきた体で、呆然と眺めていたのを今も忘れない。
私達は誰が言い出すともなくヨロヨロと帰路についた。毎度の事ながら、行きはよいよい帰りは辛いで、ヒィヒィ言いながら家に辿り着いた。
別れる前に、佐藤君は言った。悔しいな。また行こうよ。時間があまり無いんだ。俺は行きたい、と。
佐藤君は矢鱈と焦っていた。私は何も言えず、険しい表情の佐藤君を見ていた。暗い夜空に北風が急に強くなり、吹き付ける風にボロボロの私達は今にも倒されそうな不安定さによろめいていた。
それから暫く旅には出られなかった。両親からは怒られ、親の連絡で知ったのか、何故か担任教師からも激しい怒りの小言を貰い、学校と塾と家だけが私達の生活となった。
気付けば大人達の間ではでは佐藤君が一人だけ悪者になっていた。彼自身も、自分が連れ出した、無理矢理に。それだけを繰り返していたという。
私と熊本君は否定したが、大人達は更に佐藤君を批難する方向へ向かってしまった。
十二月になった。私達は皆表立った行動をせず、しおらしい生活を送っていた。朝は登校して、夕方帰る。遊ぶ者は誰かの家や近所の公園に行き、塾や習い事に行く者もいた。
未知への緊張に恐怖する事もなく、達成感に興奮する事もない毎日。
まるで、文科省やテレビの中に出てくる普通の小学生の、らしい、暮らしをしていた。それはもう一定のルーティンであり、それはそれで、慣れてしまえば退屈を覚える事もないまま、平和な日々を過ごしていた。
やばい。逃げろ。
三人同時に木陰から全力で逃げ出した。
自転車に跨がるが早いか、私達は来た道を一目散に下っていった。無我夢中である。
追ってきたらどうしよう、どうしよう。熊本君は恐怖に泣いていた。私も膝がガクガク震えるのを止められなかった。
山を下り、スタート地点迄戻り、三人肩で息をしながら立ち尽くしていた。追ってくる気配はない。安堵に深い疲労を覚えた。
振り返ると、山は青く黒く既に夕闇に沈もうとしている。
その陰鬱ともいえる景色を冷えてきた体で、呆然と眺めていたのを今も忘れない。
私達は誰が言い出すともなくヨロヨロと帰路についた。毎度の事ながら、行きはよいよい帰りは辛いで、ヒィヒィ言いながら家に辿り着いた。
別れる前に、佐藤君は言った。悔しいな。また行こうよ。時間があまり無いんだ。俺は行きたい、と。
佐藤君は矢鱈と焦っていた。私は何も言えず、険しい表情の佐藤君を見ていた。暗い夜空に北風が急に強くなり、吹き付ける風にボロボロの私達は今にも倒されそうな不安定さによろめいていた。
それから暫く旅には出られなかった。両親からは怒られ、親の連絡で知ったのか、何故か担任教師からも激しい怒りの小言を貰い、学校と塾と家だけが私達の生活となった。
気付けば大人達の間ではでは佐藤君が一人だけ悪者になっていた。彼自身も、自分が連れ出した、無理矢理に。それだけを繰り返していたという。
私と熊本君は否定したが、大人達は更に佐藤君を批難する方向へ向かってしまった。
十二月になった。私達は皆表立った行動をせず、しおらしい生活を送っていた。朝は登校して、夕方帰る。遊ぶ者は誰かの家や近所の公園に行き、塾や習い事に行く者もいた。
未知への緊張に恐怖する事もなく、達成感に興奮する事もない毎日。
まるで、文科省やテレビの中に出てくる普通の小学生の、らしい、暮らしをしていた。それはもう一定のルーティンであり、それはそれで、慣れてしまえば退屈を覚える事もないまま、平和な日々を過ごしていた。




