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緋色の魔法少女、或いは紅の魔女  作者: 水城優希
プロローグ
4/5

03:そして始まり

「こちらへどうぞ」


ツェツィーリアに案内された部屋は彼女の言うようにいわゆる『客間』と呼べるもので、中心にあるテーブルにも簡単な装飾が施されており、普通に過ごすというよりも誰かをもてなす為の場所であることを示していた。


「お飲み物はいかがいたしましょう?」


三人が部屋の内装を眺めているとツェツィーリアが尋ねた。


「あたしオレンジジュース!」


そこに勢いよく手を上げたのは美弥だ。

彼女のある意味空気を読めていない事のある明るさはさぁやの心をしばしば軽くしてくれる。


「美弥さん……」


それに対し楓はそんな美弥の様子に呆れた様にため息を吐いた。


「あははみゃあ……ここは異世界なんだよ?オレンジジュースって言っても伝わら―――」

「かしこまりました。お二人はいかがいたしましょうか?」

「―――あるのっ!?」


思わず突っ込みを入れてツェツィーリアの方を見ると、彼女は冷蔵庫と思しき者からガラスの容器に入ったオレンジ色の液体を取り出していた。

どうやら本当にあるらしい。


「……それでは私も同じものを」


楓も驚いたような呆れたような微妙な表情だったが、すぐに持ち直して美弥と同じオレンジジュースを頼んだ。

それを受けてツェツィーリアはグラスを取り出してジュースを注いでいる。

鮮やかなオレンジの色がグラスを満たすのに少し遅れて、柑橘系の香りがさぁやの鼻にも届いた。


(あ、いい匂い……)


思わず頬が緩む。

その瞬間をどうもツェツィーリアに見られてしまったようで、さぁやは微笑む彼女と目が合ってしまった。


「じゃ、じゃあさぁやもオレンジジュース……」

「…はい♪」


何となく恥ずかしい気持ちになりながら、さぁやもツェツィーリアにそう頼んだ。




飲み物の準備はすぐに終わり、さぁや達はツェツィーリアに促されて椅子に座る。

まだ小さい彼女たちには少し大きな椅子に座ると、さぁやは足が地面に着かなくなってしまう。

それに何となく心もとなさを覚えながらさぁやがジュースに口をつけると……


「……んっ、すごく美味しい!」


爽やかな柑橘の香りとコクのある甘さ、下をつく酸味がとても心地よい。

さぁやが家で飲むオレンジジュースとは全然味が違う。


「これは…かなり良いものを使っているようですわね」


楓も驚いたように頬に手を当てていた。

彼女が言うならやはりこれは高いものに違いないとさぁやは確信した。


「なー!うまいなー!」


美弥に至っては既に始めの一杯を飲み干してツェツィーリアにお代わりを頼んでいる始末だ。

そんな彼女にさぁやも楓も思わず苦笑してしまう。


「もう、みゃあったら―――」


  ―――ズンッ


さぁやが口を開いた瞬間、鈍い音と共に世界が揺れた。

テーブルに置いてあったグラスが倒れてその中身をまき散らす。


「何事です!?」


楓が叫ぶが、ツェツィーリアは落ち着き払った様子でこぼれたジュースを拭い、倒れたグラスを片付けている。

そのままシンクに向かい、グラスを流しながら彼女が答えた。


「―――魔族の侵攻でしょう」


手慣れた様子でグラスを洗い、それを置いてからさぁやへと向き直る。


「先ほどお話しした通り、この国は今魔族の脅威に脅かされています。ここは最前線の砦に近いため、攻撃があるとこのようにすぐにわかるのです」

「落ち着き払っている場合なのですかっ!?」


普段は冷静な楓もさすがに慌てた様子だ。

当然だろう。平和な日本においては大規模な争いなどは皆無。楓に限らず日本に住む者たちにとって戦争というのはどこか遠くの、ある種物語の中の出来事のようなものなのだから。


「落ち着いているわけではないのですが……私にはやるべきことがありますから」


そう言ってツェツィーリアはさぁやを見る。

その真っすぐな瞳が広間での言葉を思い出させた。


『私と契約して、魔法少女になって下さい』


そう、つまり彼女は―――


「さぁや様、でしたね。今一度お願いいたします」


ツェツィーリアがさぁやの元に歩み寄り、膝をついて首を垂れる。

それは先程のシーンの再現。


「どうか、私と契約して魔法少女になって下さい。そしてこの国をお救い下さい」


同じ言葉、しかし前回とは違う事がある。


(どうしよう……!?)


この国は、今まさに攻撃を受けている。

それはつまり、いまこの瞬間も―――


「……っ!!」


ぎゅっと目を瞑って想像を追い払う。

しかしそのようなことでは頭に浮かんだものは消えてくれなかった。


「どうか、お願いいたします…」


ツェツィーリアはただただ頭を下げてさぁやの答えを待っている。

その言葉は楓の言ったように落ち着いたように聞こえるが、よく見ると彼女の肩が細かく震えていた。


(この人も怖いんだ……)


それを見てさぁやの中に彼女に対する同情のような気持ちが沸き上がる。

正直に言ってさぁやは自分に国を救うような違らがあるとは思えない。

しかしここの人たちはそれを信じ切っている。つまりさぁやが断るという事はこの人たちを見捨てるという事で―――


(―――っっ!!)


「やりますっ!」


さぁやは思わず叫んでいた。

こうして、さぁやの魔法少女としての物語は始まった―――

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