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緋色の魔法少女、或いは紅の魔女  作者: 水城優希
プロローグ
2/5

02:ツェツィーリア=エーデルシュタイン


「えっと……」


伸ばされた腕に戸惑い、さぁやは周りを見回した。

壁際に立つ人たちは皆一様に白いローブを頭からかぶっており、その表情などは良く見えない。

何やら小さく話をしているようだが、少し離れているため内容まではよくわからなかった。


(ここ、どこなの……?)


さぁやは学校に向かっている途中だった…はずだ。

それなのにこの状況、もしかして実はまだ家の布団の中で夢でも見ているのだろうか。

さぁやが混乱している間も眼前の女性は微動だにせず、腕を伸ばしたまま真っすぐにさぁやの瞳を見つめている。


「―――あの、よろしいでしょうか」


……と、さぁやの後ろから聞きなれた声が聞こえた。

振り向くとそこにいたのは―――


「まずは状況を説明していただけないでしょうか。

ここは一体どこなのか、私たちはどうなってしまったのか」


美弥と楓がそこにいた。

二人とも今朝(でいいのだろうか)会った時の格好、ふとさぁやは自分がランドセルを背負っていることに気付いた。


「―――それと、貴方方は一体誰なのか」


楓が硬い表情で女性に尋ねる。

彼女はこの三人の中でもっとも聡明で頭の回転も速い。

さぁやは一先ずは彼女に任せた方がいいと判断し、少しだけ身を引いて楓に並んだ。

するとすぐに美弥が反対側に並び立ち、さぁやの腕を取る。


「さぁや、大丈夫…?」


心配そうにさぁやの様子を伺う美弥。

左腕に感じる彼女の熱でさぁやの緊張が少しだけほぐれる。


「…ん、ありがと」


小さく返してから視線を目の前の女性に戻す。

女性は年の頃二十歳に届かないくらいだろうか?ローブから覗く鮮やかなブロンドが蝋燭の光を反射してキラキラと光っている。

宝石のような蒼い瞳は、今はさぁやから逸れて楓へと向いていた。


「―――申し遅れました。私の名はツェツィーリア=エーデルシュタインと申します」


伸ばした腕を降ろして女性…ツェツィーリアはたおやかに頭を垂れた。




楓とツェツィーリアの話をまとめるとこうだ。

まず、ここはシュタイゲルンという都市の大教会の地下の大広間。

彼女達はその教会のお偉い方々で、中でもツェツィーリアは『聖女』と呼ばれる特別な立場の人らしい。

そして現在この街…この国は魔族と呼ばれる者達から大規模な侵攻を受けていて、じわじわと領地を奪われてしまっている。


「―――つまり、貴方方を魔族の手から守るために私達はこの場に召喚された……と?」

「左様でございます」

「………」


そういうことらしい。

状況が飲み込めずに(或いは飲み込めたためか)楓は額に手を当てて眉を顰めている。

美弥は話について行けているのかいないのか、ひたすらにぎゅっとさぁやの腕を抱きしめている。


「何故、私達なのでしょう」


楓が尋ねるとツェツィーリアは少しだけ困ったような表情を浮かべた。


「実は私どもが呼び出したのは一人だけのはずだったのです。しかし何分古い秘術でして、手技に誤りがあったのか、若しくは元々一人に絞れるものではなかったのか……このようになってしまったのです」


そう言って彼女はさぁやに目を向けた。

つまり―――


(……さぁやだけを呼ぶつもりだったのに、みゃあとかえちゃんも一緒に来ちゃったって事……?)


それを聞いてさぁやの気分が少し落ち込んだ。

つまり二人はさぁやのせいでこのわけのわからない状況に巻き込まれてしまったということなのだろうか。


「さぁやさん」


声に顔を上げると楓が微笑んでこちらを見つめていた。


「さぁや」


美弥は真っすぐにさぁやを見つめている。

しかしその瞳に彼女に対する非難の色は見られなかった。


(二人とも……ありがとう)


親友二人の心に触れてさぁやの胸に暖かなものが広がる。

それと同時に固まっていた思考が動き始め、状況が明確に飲み込めてくる。

自分が目的であるのなら、これ以上は楓に任せてはいけない。


「お姉さん」


さぁやは小さい胸を精一杯に張ってツェツィーリアに向き合う。

二人を自分の影に隠すように前へ進み出て、ツェツィーリアの吸い込まれそうな深い瞳を見つめた。


「ようはさぁや…私がお姉さん達のために戦えばいいんですよね」


声が震えてしまわないようにお腹にぐっと力を籠める。


「それなら私…頑張ります。だから―――」

「さぁやさん、待ってくださいまし」


しかしそんなさぁやの肩に楓が手をのせた。


「急ぎ答える必要はないはずです。もう少しちゃんと考えてみませんか?」

「でも……」


楓の言葉に反発する。

楓の言っている事は尤もで、よくわかる。

だけどさぁやがこの二人を巻き込んでしまったのであれば……


「さぁやさんの気持ちは嬉しく思います。ですが戦うという事は……それなりに危険が伴うはず。軽はずみに受けるのはよろしくありませんわ」


楓が優しくさぁやの髪を撫でた。

そして同時に、楓が『危険』と言った時の小さな逡巡で、さぁやは自分が少し焦りすぎていた事に気付いた。


「少し考える時間を頂きたいのですが、よろしいかしら」


楓はさぁやが一先ず思いとどまってくれたことに胸を撫でおろし、ツェツィーリアに問いかけた。

それにツェツィーリアは小さく了承の意を示す。


「客間にご案内いたします。飲み物なども運びましょう、何かご希望は御座いますか?」


そうして三人は彼女の後について、広間を出て行ったのであった。


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