幕間-宣戦布告-
「なによ、電話してくるなんて珍しい」
「お前も珍しく機嫌が良さげだな」
「いつもイライラしてるみたいな言いぐさ」
「間違ってるか?」
「……ふん。で、用件は? どれくらいかかるかの見通しくらいは言ってよ」
「そんなにかからない。言葉としては、お前が流しても済む話だ」
「変な言い回しするわね」
「お前が嚙みついてくるかどうかってことだよ。四季風のことのだからな」
「はあ?」
「名前を聞いただけで、一気に不機嫌になるな。不倶戴天の敵でもあるまい」
「呉越同舟。しかも一方的に迷惑かけるものだから、本当に消えてほしい。後輩があの異質さにおびえてしまって仕方ない」
「お前はお前で四季風を怖がらせてるようだから、そこはお互い様だろ。お前は四季風はどういう魂胆で指摘してるとか、虐めにへこたれずに指揮者を目指そうとしてるか、聞いたことあるか?」
「必要ない。私の目指す道に何か貢献してくれるの?」
「自分が授かった、自分だけの能力を使って、自分が見ている世界を知ってもらいたい。あいつはそう言った」
「………」
「俺にも刺さる言葉だが、お前はそういう純粋な思いを根底に据えて、今も音楽家をやってるのか?」
「実力がなければ戯言よ」
「ごまかしたな。まあそうだな。結局実力主義には勝てないのは事実だ。だから、俺があいつを育てることにした」
「今、なんて言った?」
「俺が、四季風を指揮者として育て上げる。期限はコンクールの一月前くらいだろうか。それくらいまでに、お前が舌を巻く、もしくはそのまま完敗だと認める逸材に育てる」
「出来るわけないじゃない! あんなのに付き合うなんて、あんた正気!」
「さあね。ただ、俺はあいつの見てる世界が気になった。お前が邪魔だと蹴ったものを、俺は拾い上げた。それ自体をお前にとやかく言われる筋合いはないね」
「なんであんたは……あんたは! 勝手にしろ!」
「おお、吠え面かかせてやるよ。そんじゃあな」
後付けでねじこんだので、あとあとおかしくはなっていないことを祈る