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GIFT-音のキャンバス-  作者: 楽団四季
プロローグ
1/25

拍手

 演奏が終わった。俺の感想では、結果は文句なしだった。会場を響きわたる拍手喝采もそれを表しているだろう。

 一つ一つは小さく、一瞬で霧散してしまうような音でも、協力することで会場全体を反響するまでに至るのは、拍手という行為も一種の合唱だからだと考えられる。

こんな発想も、生まれた時から音楽に触れてきた人間の、心の奥底に刻み込まれた感覚なのだろう。

 まだ拍手は止まない。

 今の俺は観客の一人だが、この音が伝えようとしている賛辞の言葉は、自分のことのように嬉しい。

 なにせ、この賛辞を招き寄せた奴を陰で支えたのは俺だから。あいつが評価されるってことは、延いては俺への評価だ。誰かに聞かれたら「アホか」って言われそうだけど、ここまで来るのに相当苦労したんだ。これくらいの優越感は許せと返したい。

 舞台の一番目立つ場所、たった一人で全てをまとめ上げるリーダーのポジション――指揮者を務めたあいつが、送られている拍手に応えようと、こちらに振り向いて何度もお辞儀しながら笑顔を振りまいている。

 天真爛漫。それがお似合いの屈託のない顔を方々へ向け続け、途中で俺の方を向くと気付いたようで、すぐに首を巡らすのを再開したが、視線が交錯したことで、なんとなく注目されたのがわかった。

 それにしても、正装しているとかなり目立つ。遠くからでも意識すれば目につく。近い位置で見た連中は嫌でも目について、話に聞いていても、相当訝しい気持ちで見ていただろう。俺だって、初めてあいつを知った時は、偏見持ちまくりだった。


 あの、耳元で光る黄色の補聴器は。


 初めての大舞台だった。場数は踏んでいても、まるで違う規模の大きさを前にしては、随分と心許なかっただろう。おまけに、身体ハンデと偏見から来る重圧に加えて、大会場特有の空気の重さがあったはずだ。

 それでも、あいつはぶれることなく自分の役目を完璧にこなして見せた。その勇姿を見届けられたことは、鍛えた師としては非常に誇らしく、そして俺に音楽へ復帰させてくれた恩師の活躍としても嬉しく思えた。

 それはそうと、公演に訪れるといつも思うのだ。

 俺はこの拍手を、音楽の一種だと思っている。打ち方や手の形で、鳴る音は千差万別だから、全てが異なる楽器と見ることが出来る。

 それは、音色が異なるということだ。音の色が違う数千の協奏は、あいつの目にはどんな風に見えてるんだろうって。

 言葉には聞いても、俺はあいつの見る世界を直に体験したい。

 それが叶わないというのは、非常に悔しい。

初っ端から幕間って付けるのはおかしいので付けていないですが、作者のイメージではその立ち位置に当たります。

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