オカ研
それは一ヶ月ほど前の放課後のある一言から始まる
「ねえ学校の不思議気にならない?」
オカルト研究部略してオカ研の部長、小井川由美がいきなりみんなの前に立って言う。
オカ研は総勢四名という人の多くない部活だ。由美に連れられて入った私は興味がないのにもかかわらず、なぜか副部長にめでたく就任していた。よく私に任せる気になったよね、この人たち。
「それは一体どういう意味です?」
なぜかずっとおどおどしていて敬語な篠田未来。
「こっちにも意味の分かるように説明してくださいませんこと?」
高飛車でなんだかんだ友人思いな四ノ宮璃子。
そして私の四人だ。一見何のまとまりを持たない私たち。実は一見ではなく本当になんのまとまりもない。____ある一つのことを話しているとき以外は。その一つのこととは
オカルトの話。
ここに居るメンバーは大のオカルト好き。キューピットさんや口裂け女、人面犬などなど。そんな話をしてはああでもないこうでもないと議論を交わしている。私を除いて、だけど。
しかし確かに未来と璃子の言う通り意味がわからない。由美は私の方を見てきたが私も首をひねり答えにすることにした。すると由美はあからさまに大きくため息をつき
「そんなことでいいの、いや良くない!仮にも皆オカ研のメンバーなんだよ?気になるところはあるじゃない!!」
と言い出した。ちなみに今のこいつはものすごくうざい。
「特に鈴!オカ研の副部長っていう自覚が足りないんじゃないの?!」
「お言葉だが由美、いつも言うように私は興味無い。それに副部長を任せたのはお前らだ。私は何回も確認したぞ?私で良いのか、って」
「それはそれ、これはこれじゃん?」
「なんの理由にもなっていない」
「そんなことよりもですわ」
この大事な話しをそんなことって……まあ確かにどうでもいいことかもしれないが……私にとってはそうでもないんだぞ?
「さっきの話どういう意味なのですわ」
自尊心の高い璃子のことだ。自分が気にならなかったことが悔しいのだろう。しかしまだまだ甘いな、璃子は。
「それはね、この学校の七不思議のうち知られているのは六つ。それはしようがない」
その由美の言葉に二人はうなずく。なんでも七つ全て知ってしまったら良くないことが起こるらしい。何が起こるのかは一切合切わからないが。知ろうとしてはいけないものらしいのだ。……そんなこと言われたら余計に知りたくなるじゃないか、ねぇ?
まあそんなことを言ったら怒らえるのは目に見えているので言わないが。
「その六つのうち五つは特別教室に関するものでしょ?でも残り一つが二階の渡り廊下の話じゃない!一つだけ違う、これっておかしくない?」
二人は呆然とした顔になる。甘いのは璃子だけではなかったか。しょうがないな。
「別におかしくはないだろう?特別教室だとはいうがそのうち一つは屋上だ。まず教室でもなんでもないぞ?」
「でもでも屋上は特別って感じがするじゃない!!」
「どこの理論だ、それは」
「それで一体何が言いたいのです?」
一番の問題はそれだ。一体何が言いたいのかがわからない。由美はにこやかに笑う。……嫌な予感しかしない。由美がこうやって笑う時は大抵なにかを提案する時だ。
「ねえ今日二階の不思議調べてみない?」
ハァ……やっぱりか。でも、
「いいのではないですか?」
「面白そうですわね」
まあそういうだろうな。三人は私の方を見る。
「鈴はどうする?」
「ったく、私が行かないと誰がお前らを止めるって言うんだ?」
そう私が言うとニッコリ笑い全員の参加が決まった。
私はいや私たちはこの時は何もわかっていなかった。
この後何が起こるのかということを
何も
何も
ーーーーーーーーーーーー
~午後五時~
「さてもう人も少ないしいいかもね、まずは確認ね。渡り廊下の話だけで良いよね?時間も時間だし」
私たち全員はうなずくことで答えにする。他のも気になる人のために言っておくが他は基本的によくあるようなものだ。屋上で自殺した生徒が同じところに一緒に連れて行こうとする、とか動く理科室の人体模型などなどよくあるようなものだ。だけど一つだけ聞かないものがある。それが今から確かめに行く怪談だ。
二階の渡り廊下に大きな姿見がある。なぜそんなところに取り付けられているのかは不明だ。よくあるのは階段の踊り場などだろうが……そこはまあ良しとしよう。そしてその大きな姿見の鏡が七不思議の一つに数えられている。それはその鏡の前で「ミコちゃん遊ぼ」と言うとどこからか「いーいよー」と聞こえてきて「何して遊ぶ?」と聞くと、「かくれんぼ、鬼はわたし」そしてかくれんぼが始まるというもの。この怪談には何故か一つの注意がある。それはきちんと終わりの時間を言わなければいけないと言うことだ。普通には無いはず。そしてもう一つ……これには最後の結末が伝えられていないのだ。
こう考えたら不思議なところが多いな……気になる。うずうずと心の底から好奇心が湧きあがってくる。
この好奇心が後の後悔につながることを知らずに。
「ここですね、誰が言います?」
「部長のあたしが言うよ、言いだしっぺだしねー」
にこやかな顔をしながら姿見の前に立つ。
全員私よりも高いので私は鏡に映らない。むかつくけれどまあ良い。さて実験開始だ。
「ミコちゃん遊ぼ」
10秒、20秒、1分。何もなく時間だけが立つ。
「んー、やっぱり嘘かー」
由美は少し残念そうに、けれどもホッとした様子でつぶやく。他二人もホッとした様子だ。そりゃそうだろう。でもどこか変に寒気がする。他も感じているようだった。
しばらくするとコツリコツリとどこからか足音が聞こえてくる。
「何ですの?この音」
スリッパを履く学校にはとてもじゃないが似合わない音。
『いーいよー』
どこからともなく声が聞こえる。
「…………え」
びくりと全員の肩が震える。
「誰ですか、こんな悪ふざけをするのは」
強がって言っているのは丸分かりだ。かくいう私だって平静を保っているのがやっとだ。由美は少し青ざめた顔をしつつも怪談の通り続ける。
「…………何して遊ぶ?」
『かくれんぼ、鬼はわたし』
「五時半までだよ」
『わかった、じゃあ数える。いーち、にー』
全員はしばらく止まっていたがその数える声が聞こえた始めたことではじかれたように走り出す。
「とりあえず五時半になったら終わりだから、終わったら校門に集まろう!!」
走りながら由美は言う。他の人は聞こえたのだろうか、わからない。だけど隠れなきゃ。私はとりあえず屋上への階段を走り出した。あそこには沢山の段ボールがある。小さな体の私は隠れることが出来るはずだ。
信じてはいない。
けれどもあの似合わない靴音。
どこからか聞こえた声。
私が少し本気になるには十分だった。
でもまだどこかで信じていた。
これは嘘だ。
誰かの冗談だって。
そう信じていた。
でも心のどこかで感じていた
これは冗談でも嘘でもない。
現実のことなんだって
今、何時なのだろう。
わからない
みんなはどこに隠れたのだろう。
きっとあの子たちなら大丈夫、大丈夫。無理矢理に言い聞かせる。
コツリコツリ
コツリコツリ
またあの足音がする。
『あと一人、どこ』
あの声がする。
来るな、来るな、来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな
来るな
自分の時計を見る。
あと二分
早く早く
『ここかな』
『ここかな』
『ここかな』
『ここかな』
音は少しずつ少しずつ近づいてくる。
あと一分
まだ?まだ?
『ここかな』
『ここかな』
五十秒
四十秒
三十秒
二十秒
十秒
五
四
三
二
一
五時半になった。
良かった……終わりだ。
『あーあ、私の負け。またアソボ』
そう言って何も音はしなくなった。
その後六時まで待ったが彼女たちが校門に来ることはなかった。