羞恥は危険っ!!
北の森の獣道を王都へ向かって歩いている。
無理矢理ジャケットのポケットに引っ張り入れたイリアの冷たい手を、武骨な指で撫でればビクッと震えた。気を良くした南の次男坊は撫でるのを止めない。その度にイリアの手は震えて、逃げようと藻掻くが男はそれを許さない。只でさえ大きなコンパスを開いてイリアの気を足許へ逸らす。
「ま、ま待って!山で走らせないでっ!!」
イリアは丁寧語(お嬢さま語?)を使うのも忘れて抗議した。若干下っている山で転びでもしたら悲惨である。直ぐに停まれば良いが……勢いそのまま転がり続けてしまったら?
見るも無惨な姿になってしまうかも知れない。
ただでさえ、融け掛けた雪のせいでぬかるんでいるというのに。
ちらりと目線だけ振り向いた南の次男坊が目にしたのは、真っ赤から一転、青ざめたイリアだった。
遣り過ぎたと思った南の次男坊は直ぐ様急停止。「わっ、ぷっ!」とイリアが広い背中にぶつかる。
振り返れば良かったと南の次男坊は後悔した。
抱き留められたのに、と。
「きゅっ急に止まるな危険!ですわっ!!」
赤くなった鼻を擦りながらイリアが涙目で見上げた。
計らずとも上目遣いになってしまったイリアだったが、それを背中越しとはいえ間近で受け止めてしまった南の次男坊はその場にしゃがみこんでしまう。
「えっ?え、ちょっ何ですのっ?何処かぶつけましたの!?」
繋がれた手に引っ張られてイリアも隣に膝を着き、慌てた様子で顔を覗き込む。
正確には覗き込もうとした。
しかし、繋いでいる手とは逆の手がイリアの顔面を覆ってそれを防いだ。
大きな手に阻まれて何も見えなくなってしまう。
「見んな」
静かな森の中で、南の次男坊の声は低くて掠れて小さいのにはっきり聞こえた。
途端に息苦しくなったように感じられた。
今すぐ顔を覆う手を外して欲しいような、欲しくないような気がした。
でも、とイリアは空いている方の手で男の手を押しやりながら顔は下へ向けた。南の次男坊が見られたくないと言うのならそれに従ってあげようと。
始め拒否していた男の手だったが、イリアの顔が下へ動くのを認めると自らその手を離した。
「怪我ですの?」
そうではないだろうとは思いながらも一応確認する。
南の次男坊は長い息を吐いた後、徐に口を開いた。
「いや、ねえ。お前は?」
「怪我はありませんわ。……ただ、大変っ!疲れま・し・た!!」
あんたのせいよ!とイリアは口を尖らせた。目線は二人の手が入っているポケットだ。手を人質に捕られているせいで走らされたのだ。文句の一つや二つ吐いても許される筈だ。
「あー、悪かった。(言い訳言い訳……)くそ兄貴に見付かると不味いと思って、な」
「――!!そっ、それは不味いですわっ」
イリアはキョロキョロと辺りを見回した。兄から逃げた事も不味いが南の次男坊と二人っきりでいるのも、大変不味い。
おまけに、手を繋いでいる。
顔を動かしていたら目が合った。
見るな、と言っていた男がイリアを見つめている、
もう、見ても良いのだろうか。見て不味いモノは隠したのだろうか。
「走らせて悪かったな。お詫びになんか奢ってやるから」
「えっ!!!」
「……現金な女だな」
「……うっさい!ですわよっ!!」
いつもありがとうございます!




