……噴火?それは〇〇のことです(前)
若い男は足音を殺して長い廊下を走っていた。
仕事の為そろそろ起床するノーランド侯爵はともかく、その奥方はまだまだ夢の中な筈だ。
男は北の侯爵家のリビングの扉を軽くノックして返事の後、開けた。中は薄暗く暖炉とカーテンの隙間から射し込む朝日だけで様子を窺う。
「お風呂の準備が出来ました」
「すまない」
「ありがとうございます」
同時に返事はあるものの、毛布に包まった二人は動こうとしない。
ピンっと張り詰めた空気に二人がケンカをしているのが分かった。
けれども、いつもと違うとも思った。
一言で言えば……いつもはイチャイチャケンカ!で、今はピリピリケンカっ!?である。
男は大変気になったが、その内仲直りするだろうと思う。兄である若様の方が折れるに違いない。
男はそっと扉を閉めた。
その顔には喧嘩する程仲の良い兄妹の様子を気に掛ける色は無い。仕事モードに切り替わったのだ。
今日はまだ始まったばかり。因って兄妹に構ってる暇なんて無いのである。
お兄さまには何を言っても無駄なのか。
さっきからずっと、わたくしを怒気を帯びた瞳で睨むだけ。
睨まれる様な事をわたくしがしたのだろうか。
『求婚された事』はお兄さまを怒らせる程の事だったのだろうか。
確かに求婚された事は言わなかった。
いくら何でもお兄さま相手に恋バナとか無い。恥ずかしい。
何より、やはり、怒られる、と思った。理由?はよく分からない。
現にお兄さまはお怒りの様だし……。
身に覚えは無いが、彼らに好かれるような事をしたのがいけないのか、内緒にしたのが不味かったのか。
人の事、言えないけど……。
お兄さまって、お兄さまって――!、
「お兄さま……。ちょっとシスコンの度が過ぎませんこと?」
イリアの言にも間違いなく怒気が込められている。逆ギレである。
理不尽ともいえる兄からの怒りにイリアも堪忍袋の緒が切れた。のだが、叫んだりはしない。否、出来ない。更に兄の怒りを煽りそうで怖かったのだ。
叫び出したい怒気を押さえあくまで、静かな口調で兄を責めた。
「……シスコン?シスコンだって?」
兄は自嘲する。イリアが面白い冗談を言ったみたいに、愉快にけれど眉根を寄せて。
「イリア……。俺はね、シスコンじゃあ、無いんだよ」
最初にちょっと家人視点です。




