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こちらでも求婚者は爆弾を落とす

イリアの兄視点です。


その日、騎士団団長(イリアの兄)の仕事はなかなか終らなかった。

勅命で突発的で傍迷惑な任務が入り、その会議や準備に追われる羽目となり、既に日は沈み始め部屋の外は暗くなってきていた。

長らく書類に目を通していた騎士団団長(イリアの兄)は、目頭を押さえ大きく伸びをした。直ぐ隣の応接室では数人の部下が書類相手にうんうん唸っていた。


「暫く休憩にしよう。私は今日中に帰るのを諦めたが、お前達どうする?」


王都はそうでもないが、北の街へと続く山道は雪が深く今から帰っても家に着くのは夜遅くなってしまう。夕餉は勿論、家族も寝に入っているだろう。


「あ、俺は(王都に住んでるので)切りが良い所で帰ります」

「私も帰宅します」

「私は(東の街なので)詰所にでも泊まらせてもらいますよ」


「そうか、なら二人は軽く休憩して続きをしてくれ。私達は夕餉にしよう」


騎士団団長(イリアの兄)は帰宅できない一人を伴って部屋を出た。食堂に向かって歩いていたが後から呼び止める声がしたので、連れを先に行かせ騎士団団長(イリアの兄)はその声の主に向き直った。


「団長、宴以来だな」

「はい、その後如何でしょうか。――殿下」


騎士としてではなく王子として接する彼に騎士団団長(イリアの兄)は頭を下げた。が、何故か王子はしどろもどろに慌ててそれを止めた。


「や、止めてくれ、団長。未来の義兄さんに頭を下げられたくないんだよ、特に今日は」


「……は?」



騎士団団長(イリアの兄)の顔には笑顔が貼り付いていたが、こめかみには青筋が浮かんでいた。




うん?

今何と言ったか?この王子は。

義兄と、言ったか?

それは……①親が再婚した連れ子同士、義理の兄弟になった。

②弟妹の結婚相手、つまり義理の兄弟(妹)になった。

両親は勿論国王陛下夫妻も健在なので①は却下。

即ち、それは――②。

王子はイリアの結婚相手になるつもり、ということか。



王子は不穏になっていく空気に気付く様子もなく、聞かれてもいない事をペラペラと話す。

曰く、本日イリアと両親を訪ねて北の侯爵家へ行った事。

曰く、イリアに求婚する許可を両親から貰った事。

曰く、南の次男坊(護衛)王子の側近(従者)が、王子の求婚に乗っかかって求婚してきた事。

曰く、イリアの手作りケーキを食べた事。


「三人の中では私が一番義弟に相応しくないだろうか?」



王子が満面の笑みで外堀を埋めて来ようとする。

王子の求婚も南の次男坊(護衛)王子の側近(従者)の求婚も両親の許可も全て、腸が煮えくり返りそうだった。中でも王子が『イリアの兄』の許可を得ようとしているのが堪らなく嫌だった。

それでもなんとか、怒気を押し留めて言った。

底冷えする程低く掠れた声と射殺すような冷たい瞳に睨まれて王子は竦み上がった。




「イリアは誰にも嫁に遣りませんよ」









――そう、イリアは誰にもは渡さない






王都、城、団長の執務室からの廊下、です。

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