冬将軍は求婚者を連れて
アギフと出合いアギフが去るまでの冬の話です。
イリア視点です。
遥か遠い南の海の向こうから冬将軍がやって来た。
ミルクスン山脈の山の上、南の街、王都を覆ってここ北の街にも。
北の侯爵家ノーランド邸の応接室、赤々と燃える暖炉の前には王子とその護衛と従者が居た。
イリアは窓の外、降り積もる真っ白な雪を見やる。
何故こんな事になったのか……と考えながら。
さて、皆さん。
イリアは普段何をして暮らしているのか、疑問に思った事はないだろうか?
学校に通っている様子は無いし、働いている感じもしない。
十六歳、地球の女子高生と同年代とはいえ、遊び暮らしているとしたら羨ましい限りである。
この国に大きな学校は無いが、それぞれの街に小さな塾のような物がある。
かといってイリアは其処に通った事は無い。
腐っても良い所の子女である。現在進行形で家庭教師を雇っている。
読み書き家事洗濯料理、ダンス会話術社交術刺繍オシャレ編み物縫い物、その他興味のある害の無い物、男性の扱い(誉め)方、舅姑との付き合い方、敬語とか歴史とか、とかとか。
大部分が要は『花嫁修業』であった。
そんな訳で本日イリアは調理場に居た。
おかずを作る事は許されてはいたが、お菓子作りは禁止されていた。
だが、何事も勉強、そして実践である。
イリアは料理長の指示に絶対従うと約束してお菓子作りは解禁された。
本来のイリアであれば、砂糖が少しくらい多かろうが少なかろうが気にしない。溶かしたバターを使うと言われても面倒なので固いまま使用。混ぜるのも手が疲れたら終わり。
しかし今日は違う。
約束したのだ。お兄さまと。先日のお出掛けのお礼にイリアの手作りケーキが食べたいと言われて、イリアも直ぐに了承した。イリアは作りたかったのだ。というより食べたいだけだが。この世界には未だ 存在しない甘いお菓子の数々を。料理長に任せれば良いのだろうが、 作り方はうろ覚えで手を動かす事に寄って記憶を辿っている。それが重要な気がする。口頭やレシピを作ろうにも喉からなかなか出て来ない。
かつてのイリアは、己の適当な調理方法とうろ覚えなレシピで大惨事を引き起こし、調理場から出禁を食らっていた。
かつて失敗したケーキの作り方を反省し、実践出来ないのであればイメージて補う。何度も試行錯誤してレシピを作り料理長に可能かどうか確認した。
料理長はそれを試しに作り、イリアの手で作る許可が出た。
イリアは料理長の指示をよく守り頑張ったが、焼き上がったガトーショコラは潰れてしまっていた。
それでもかつての大爆発を思えば大成功だった。調理場に居た皆で試食をし「味は大丈夫」という低評価を得たが、食べられるだけ「マシ」である。
お兄さまが帰宅するのは夕方以降だったので夕食後のデザートに出すように申し付け、イリアは意気揚々と調理場を後にしたのだった。
そのガトーショコラが何故かイリアと両親と客人の前に置いてある。
ガトーショコラが食べたーい!!
フォンダンショコラも食べたーい !!
作れなーい(ToT)
花嫁修業は貴族といえど身の回りの事は何でも出来るように教育されてます。




