独身貴族二人の恋愛談義3
「それで」と咳払いをして空気を変えようとする宰相子息。
騎士団団長も(精神的に)疲れたので、柵に背中を預けて空を見上げた。
「どうすれば良いと思う?」
騎士団団長は柵を支えにしたまま仰け反った。慌てた少年従者が足を掴む。そのまま落下したい気分だったが、起き上がって蹈鞴を踏んだ。ポンポンと少年従者の頭を叩いてから宰相子息を睨み付ける。
どうするどうすると馬鹿の一つ覚えみたいに繰返して、こいつはっー!!!
そんなの知るかっ!自分で考えろ!!
どうすれば恋に落ちるか、なんて此方が聞きたい。
しかし、こいつのこの覇気の無さ……。
何時もようにポンポンと出て来ない揶揄いの声。
ひ、じょー(非常)に遣りにくい事この上無い!
鳥肌が立って寒気がする(精神的に!)ようだ。
何時ものこいつも決して好きという訳では無いが、こんな調子じゃ此方の調子が狂う。
騎士団団長は嫌みがましく盛大に息を吐いた。
「イリアは『恋に落ちる』と言ったんだな。ならば恋に落ちるまで待てば良い」
「恋に落ちたと、どう気付く?」
「…………た、例えば」
「うん、例えば」
「頭の中の殆どが彼女で一杯とか……だ」
「うん、君は彼女で一杯なのか」
揶揄っているのかと思ったがそうではないようだった。ブツブツ言いながら何事かを考えている。振り上げそうになったこの怒りの置場所が欲しい。
「それで、どう待てば良いと思う?」
こいつの頭の中から『どうする?』という文字を抜き取ってやりたい気に駆られたが、なんとか踏み留まる。騎士団団長の拳はワナワナと震えていたが。
「今まで通り女性の間を渡り歩いて、だ」
「そうか、成る程~!」
問題は解決したのか、幾分か明るい声音になった。
対する騎士団団長は「はぁっ~~~~~」と長く疲れきった溜め息を吐いて、今度こそ帰るべく歩き出す。
が、そんな彼の前に少年従者が両腕わわ広げて立ちはだかる。
何故だ、もう問題は解決した筈だと騎士団団長は眉間に皺を寄せて睨む。少年従者は身を竦めたが直ぐに頭を下げた。無言で。
騎士団団長は己の大人気無さを恥じ、怒気を解いた。主に似ず良い従者だと思った。そして頭をポンポンと叩く。少年従者は少しだけ笑った。やはり、無言で。
礼儀のなってない主が去り行く背中に声を掛ける。
「助かった。感謝、してるよ」
素直に礼を言われるとは思ってなかったので、騎士団団長は面喰らった。どんな顔をしていいか分からず、手を振るだけでそれに応えた。
さあ、早くイリアの元へ帰らねば。
直ぐ戻ると言ったのに、随分時間が過ぎてしまった。
この雪が降り積もる前に……あ。
はた、と騎士団団長は振り返る。
重要な忠告をするのを忘れていた。
「ただし妹には近寄るなよ」
確かに、騎士団団長の調子は狂っていたのかもしれない。
『イリアに近寄るな』と言ったばかりに被って来た迷惑を、彼は忘れていた。
それを猛省し、宰相子息には余計な事は何も言わないに限ると対策を立て、現に上手くいっていたのに……。
宰相子息の口角が楽しげに上がった事に騎士団団長は気付かなかった。
お兄さまの前世はヤンキーだったのでしょうか……。
いつもありがとうございます!




