独身貴族二人の恋愛談義1
旅の一座でイリアとアギフが話している時。
呼び出されたお兄さまは……。
影で鬼の教官と呼ばれる若き騎士団団長は南の街を遠く見下ろす断崖の上に居た。
そこはちょっとした公園になっていて植木は整えられておりベンチもある。誤って落下しないように柵もつけられており、天気の良い日は絶好のロケーションだが、生憎今日は曇っており眼下には靄が拡がっている。微かに見える南の街は雪化粧をして、それは山の上の王都まで侵食して来そうな勢いだった。
先程から粉雪が舞い始め明日の朝には王都も一面銀世界となるのだろう。
騎士団団長の吐く息も白く、足下から冷気が押し寄せて来る。
本格的に降りだす前にさっさと用事を済ませイリアを迎えに行き北の街まで帰らねばならない。
「やあやあ、待たせたかい?」
「呼び出しておいて遅れるとはいい度胸だな」
「いやいや、当日約束をキャンセルする君には言われたくないよ」
「妹の方が重要だからな」
騎士団団長は悪びれもせず答えた。宰相子息も肩を竦めるだけで止める。
騎士団団長は妹を優先させ、宰相子息とは夜に会う約束だろうがキャンセルしたのだ。小気味良い程はっきりしている。
そして、遅く出勤した宰相子息は今日の昼前にこの兄妹が王都を歩いているのを目撃したのだった。
「仕事はどうした」
「昼休憩を遅らしたんだよ。という訳で」
宰相子息がそう言うと、騎士団団長を旅の一座の天幕から呼んだ少年従者がバスケットを差し出す。中身はサンドイッチだ。少年従者は二人に紅茶を淹れる。無言で。
遅い昼食である。立ち食い、立ち飲み……それもこんな凍えそうに寒い屋外で。
「貴族のくせにみっともないな」
「そっくりそのまま妹ちゃんに返すよ」
騎士団団長はぐうの音も出ず押し黙った。
宰相子息はモグモグとサンドイッチを食べる。少し離れて少年従者が紅茶をちびちび飲んでいる。騎士団団長もソーサーを片手に紅茶を飲んだ。生姜が入っているようで体が少し温かくなってきた。
宰相子息が食べ終わりそうなのを待って騎士団団長は本題に入った。
「それで?相談とは何だ」
「うん。それは半分解決したんだけど」
「そうか、じゃあ、用はもう終わりだな」
踵を返す騎士団団長の腕を少年従者が掴んで引っ張る。宰相子息の代わりとばかりに。
「妹ちゃんに俺は理想が高過ぎると言われた」
騎士団団長は歩みを止めて何故そこに妹が出て来るんだとばかりに、宰相子息を睨んだが、彼は気付かず溜め息を吐いた。
「理想とか関係なく恋は落ちるモノだ、とも言われた」
「なら、問題解決だ」
用は終わったとばかりに再び歩き出す騎士団団長の腕を、少年従者は再び掴んで引っ張る。今度は体重を掛けて。
宰相子息は二度目の溜め息を吐き、柵に体を預けた。
「どうすれば恋に落ちる事が出来る?」
宰相子息は遠い目をしていて、その瞳には何も映していないようだった。
溜め息を吐きたいのは此方だと、騎士団団長は項垂れた。
第77話でサーデクがお兄さまに「男の人が呼んでいる」というのを
『男の子』に訂正しました。
宰相子息の少年従者の事です。
加筆しましが内容は変わりません2016.9.2




