イリアと少女と氷の帝国の話
「でもアギフは魔法も、その呪いも実際には見た事は無いのでしょう?」
イリアは見た事の無い魔法の存在は信じられない。というより信じたくない。幽霊の存在を見てもいないのに認めてしまったら……怖いでしょう?だから見るまでは信じたくない。
「見た事は無いけど……もうすぐ見れると思うよ」
「……は?」
アギフはきょとんとした顔でイリアを見た。対するいイリアは多分、目が点。クスクスと笑われた。
「この国を出たら海の国へ行って、それから氷の帝国へ行くから」
イリアは戸惑い「はあ」としか返せない。この先の旅の行程を聞かされても困る。海の国と氷の帝国に行くから何だというのだ。
「イリア……まさか。ううん、あのね」
アギフは呆れた顔をして己を窘めるように頭を振った。今日初めて会って友達になったばかりだというのに、イリアの評価は限りなく低くなってしまったようである。美食家なのは未だばれてないが。
「氷の帝国には呪い・・・つまり、最後の魔法の残滓がまだ猛威を奮っているんだよ?」
氷の帝国はこの筋肉の国の隣国である。
山を南へ下山すれば直ぐそこから氷の帝国の領土になる。
大陸の南の果てまでの広大で縦に長い大地全てがその版図となる。
即ち、筋肉の国から見下ろす南の大地全てが氷の帝国なのである。
大陸の東部の中心を南北に走るクレメンス山脈、東西に走るミルクスン山脈。
山脈を線引きして南の全てが氷の帝国であり、筋肉の国はミルクスン山脈の東の端っこにちょろっと存在し、海の国は更に東、山の切れた盆地に展開する小国である。
氷の帝国はその名が表す通り、一年の半分以上を雪に閉ざされて過ごす(地域によって冬の期間は短くなる)国だ。
政治も文化も芸術も軍も、他国に類を見ない最先端の帝国だと、氷の帝国から来た行商達は自慢していたし、商品を見れば実際にそうなのだと思う。
そんな氷の帝国で猛威を奮う魔法の残滓とは、と……疑問と好奇心を一杯にしてイリアが問えば。アギフは(氷の帝国と呼ばれているのだから何を当たり前の事を?)と思う答えを返してきた。
それは――。
「一年中、氷に閉ざされているの」
それは知っている。だから(イリアは正式な国名はうろ覚えだが)『氷の』という通称なのだ。
「氷だよ?雪に、じゃ無いんだよ」
アギフが言葉遊びみたいな事を言う。
氷じゃ無くて雪。それの何が問題なのか。大して変わらない。
高価で貴重な本にも書いてあった『帝都は一年中氷に閉ざされ何者もの進入を阻む』と。
要は雪の為、交通網に影響が!と言う事だ。吹雪の為、外出は控えて下さい!というアレだ。
あら?
何か可笑しい。
確かに『氷』と書いてあるのに脳内変換されると『雪』になる。
アギフも「雪じゃ無くて氷」と繰り返す。
もしかして。
本当に、文字どおり、氷に閉ざされているのだろうか?
いやいや。
氷に閉ざされるなんで意味が分からない。
それこそ、魔法である……。
「だから、魔法だよ」
イリアはちゃんと勉強してますよ~。
魔法は物語の中の話だと思っているから、現実としての知識が無いだけですよ~。
地図を説明するのって難しいですね……とほほ。
クレメンスとミルクスンは飼い猫のアダ名です。てへ!




