イリアと兄と旅の一座
イリア視点です。
少年の年齢を追加しました。(11月30日)
昨夜、イリアは兄を王都へと誘った。明日が兄の休日と知っての事だ。普段であれば一人で出掛けるのだが、実は未だかつて新年早々の王都商街へ行った事がないので不安に思って付き添いをお願いしたのだった。
兄はイリアを、食いしん坊か食い意地が張っているかの様に言うのだが、新年(前世OLとしては食っちゃ寝正月)なのだから美味しそうな物が沢山ある方が悪いと思う。食べたいと思うのは人の三大欲求なのだから仕方あるまい。
あ、でも奢って貰ったので!
わーい!お兄さま!!ありがとうございますっ!!!
このご恩は暫く忘れません!
でも、お兄さま……。最近スキンシップが多くて困るのよねー。
わたくしも、もう十六歳なのだから、レディとして扱って欲しいわぁ。
シスコンもそろそろ卒業して貰わなくちゃ!
と、決まれば。
やっぱ、お嫁さんよね!!
って。
お兄さまが「南の街には雪が積もってる」なんて言うから、南の次男坊に求婚された事を思い出してしまったっ!
しかも、目敏い。
顔が赤い理由が寒いからじゃ無いなら?ですって!?
寒いからに決まってるじゃないですかー!!
やーねーお兄さまったらー(棒読み)!
いけないいけない……お兄さまに奴から求婚された事がバレてはいけない。
他にも告白された事とか相談の事とかダンスでドキドキした事とか。
絶対に、バレてはいけない。
うう。
どうして、求婚された方のわたくしが、お兄さまに戦々恐々しなきゃいけないのよぉ!!
と、イリアが一人悶えている間に例の天幕に到着した。
大きくは無い。昔は白かったと思われる土で汚れた布は、地面から五十センチくらい浮いていて別の布で継ぎ接ぎしてある。無理矢理拡大した感じだ。高さは二、三メートル。十五人入れば良い方か。
サーカスのこぢんまりとした感じ。
この中で本当に興行しているの?といった体で、イリアは怖々と天幕の入口を捲った。
覗き込んだまま動かないイリアに兄が声を掛けたので、頭だけ中に入っている状態で返事をする。
「……誰も居りませんわ」
客も演者も誰も居ない。ただ中央で焼べられた薪がパチパチと燃えていた。
「ようこそ!バリア一座へ」
「わわっ!あっ!?えっと……営業してます?」
何処から現れたのか間近に十歳くらいの男の子が立っていてイリアを見上げていた。
イリアの喫驚に兄が慌てて入口を開け放ち入って来た。男の子は兄を見上げてにっこりと笑う。
「ようこそ、バリア一座へ!!お客さんが今日最初のお客さんですっ!!」
「こらっ!サーデクっ!!」
サーデクと呼ばれた男の子は「わっ!まずいっ」といった風に慌ててイリアの後ろに隠れた。しかし直ぐに兄がサーデクを引き離し、自分の前に立たせた。サーデクは声の主と兄から逃げたいようでバタバタと手足を動かすが、兄に肩を押さえ付けられてそれも儘ならない様だ。
入口の反対側(奥)に簡素な舞台があって、上座(右側)からイリアより幾つか年上と思われる少女が出て来た。
サーデクとは真心 という意味だそうです。
バリアは作り出すもの だそうです。