宴は終わり、妹は微睡む
読んでくださりありがとうございます。
お兄さま視点?です。
なんたかお兄さまの回はいつも一話で終わってしまう気がします。
お兄さま頑張れ~!!
すみません。
お兄さまの口調を直してますが、内容は一切変わりません。
新年五日目の深夜、いや、もう六日目。
イリア曰く婚活パーティーと言う名の宴が終わり騎士団長は、客を追い立てるように王城から帰宅させ、残っている客がいないか足早に見廻り、夜勤の騎士の確認・引き継ぎをして、副団長に後は任せ、イリアの待つ部屋へと向かう。
仕事中に姫の使い(女)が言付けと鍵を持って来ていたのだ。姫はよく分かっている。使いが男であったら騎士団長はその男を無職に追い込んでいただろう。姫に礼を、と此方も言付けて鍵を受け取った。隣に居た騎士が興味深そうに見てきたが無視した。
部屋のドアを開けると中は暗く暖炉の火は消えかけており、窓から射し込む月明かりだけが頼りになった。暖炉の前にソファがあり布団が丸まり鎮座している。騎士団長は苦笑してソファの前に跪くと布団に手を伸ばした。
布団を掻き分けるとイリアが苦しそうに「ん、うんん~ん」と呻きをあげなから顔を出した。
眉間に皺が寄る程苦しいのなら布団に潜り込まなければいいのに、と騎士団長は苦笑した。
どうやら、顔まで布団を被って寝るのが妹の癖らしく、幼い頃「窒息して危ないよ」と注意すれば「だって怖いんだもの」と可愛い事を言っていた。ふと目を開けてオバケと目が合ったら嫌なのらしい。
その癖は結婚適齢期を迎えても直っていないようで、まだまだ子供だなぁと少し安心する。
騎士団長は布団越しに肩を揺すった。
「イリア、起きなさい。起きないと帰れないよ?」
王城から北の侯爵家までの乗り物は馬車ではなく、馬だ。馬二人乗りだ。
イリアが乗って来た馬車は、数時間前に両親が乗って帰った。早く帰宅する予定の両親とは別に、主役の一人として長くいる必要のあったイリアは兄である騎士団長と共に帰宅する事となっていた。ドレスのイリアを夜遅くに徒歩で帰らせるのは無理な話だった。だから昨日から(騎士団の持ち物の)馬を借りて今夜の帰宅に備えていたのだが。
馬車ではないのでイリアに寝られると馬には乗れない。
普段こんなに遅くまで起きていないのだから仕方の無いことではある。起こしてしまうのは可哀想だが起きて貰わなければ此方が困る。
「イリア……」
イリアは一向に目覚めない。まるで昔居たという眠り姫のようだ。
銀の前髪がさらりと顔に掛かったので、騎士団長はそれを払ってやった。
月の光がイリアの顔を優しく照らす。
一緒に暮らし毎日見慣れている筈なのに、少女は知らない女性に見えた。
「……イリア」
騎士団長の硬く長い指はイリアの白い頬に触れた。ひんやりとしてなめらかで温かい。そのまま指は頬を滑り、その紅い唇に触れる。イリアの好物の苺のように紅くぷっくりとしていて、きっと……甘酸っぱい。
騎士団長は指を離した。
「……イリア。やっと。十六歳になったね」
騎士団長はイリアの額にそっと口付けた。
兄は布団引っぺ返して妹をソファから落として起こす。
「うう、お兄さま酷い」なんて泣き言は無視し、厩へ向かう。
「お兄さま。こんな真っ暗の中、二人乗りは危なくないですか?」震える妹が大変可愛いので無視して、無理矢理馬上へ引き上げる。
「おっお兄さまっ、お兄さまっ!本当に大丈夫ですか!?」妹は既に涙声だが、にっこり笑い返す。
翌朝、妹はどうやって帰宅したか記憶にないようであった……残念。




