宴の終わり、兄を待つ
休憩室(女子専用)にいても広間の喧騒が聞こえる。
イリアは妹姫と他愛ない話をして時が過ぎるのを待っていたが。
「ああ、そろそろ戻らなきゃ。イリア、貴女はどうするの?」
「わたくしはお兄さまを待ちますわ」
「待つって……夜勤じゃないの?」
「ふふ、今日は、ね。副団長に押し付けたんですって」
「職権乱用ね。それで、待ち合わせ場所は何処なの?」
「いえ……約束はしてなくて。迎えに行くとだけお兄さまが……」
「そう。じゃあ、イリアこっち!」
妹姫がイリアの手を引いて休憩室を出る。姫の手の平で銀色の鍵が揺れている。
「この部屋、今夜は使われてないのよ。団長がいつ迎えに来てくれるのか分からないなら、一人の方が落ち着くでしょ?」
「ありがとうございます。でも勝手に良いのかしら?」
イリアは小さな部屋を見回した。ソファにテーブル、衝立の奥にはベッド。ちょっとしたホテルみたいだ。
「私が良いと言っているのだから大丈夫よ!」
「姫様こそ職権乱用だわ!」
「じゃ、さっきの部屋に戻りましょう」
「きゃー姫様ステキー!さすがぁ姫様!!見事な職権乱用ですわっ!!!」
「何よっ!見事な職権乱用って!!」
他に誰も居ないから砕けた口調で掛け合い、二人で笑った。
イリアは今日一番笑った気がした。思えば朝から緊張の連続だった。慣れないドレス、締め付けられたコルセット(……中世ヨーロッパ風な国のくせして半端な騎士団・音楽・ダンス・マナー・貴族なのに!コルセットとか余計な物がしっかり存在してるなんて迷惑でしか無いっ!!)普段より濃い夜会用の化粧、王子とダンス、南の次男坊の求婚、宰相子息の悩み相談、王子側近の告白……。
今日はとっても疲れた。
「鍵は中から掛けてね。団長にはちゃんと言付けておくし鍵も渡しておくわ。誰が来ても開けちゃダメよ、王子なら是非開けてあげて!」
「分かりました。姫様が戻って来ても開けてあげまけん!」
クスクスと笑いながら妹姫は部屋を出て行き、イリアは鍵を掛けた。
一人になり、ほっと一息つく。
使う予定の無かった部屋は寒く水差しも無い。イリアは暖炉に向かい現世で培った技を披露する……自分に。火打石と鉄片で火花を起こし消し炭の火口に散らしそこから薪へ……慣れれば数分で火を起こせる、筈!だが・・・普段、人任せにしている己を呪う。やっと火は着いたが、かといって直ぐに部屋が温かくなるわけでは無い。イリアは奥のベッドへ向かい、掛け布団を手にする。
良かった、新年過ぎたばかりで綺麗にされている。ちょっと使ってしまうけど妹姫が良いと言ったのだから、構うまい。ソファを暖炉に引き寄せて布団に包まって座る。
うん、温かくなってきた。
暖炉の中で火がパチパチと音をたてて燃えている。炎が揺らめいているのを見ていると落ち着く。今日一日の心労が軽くなっていくようだ。ダンスとか求婚とか相談とか告白とか、どうでも良い事のように思えてくるから不思議だ。
「ふあ、あぁあ」
欠伸が出る。今日は朝早かったから……ああ、失敗した。寒いからって布団は止めれば良かった……眠い……。お兄さまを待たなきゃ、いけ、な、いの……に。
新年五日目の宴は
王子とダンス→南の次男坊の求婚→宰相子息の悩み相談→王子側近の告白
妹姫と休憩室 の順で進みました。
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