16歳は恋愛守備範囲ではないけれど……と、宰相子息4
宰相子息視点?です。
恋愛恋愛女々しいのもそろそろ終わりたいです!
「何を言いたいのか、解らない。……美しくて上品で優しい女性に恋するのは当たり前の事かと・・・」
宰相子息は本当に理解出来ないといった風に小首を傾げる。そして、その声には険がある。が、イリアは気にも留めず如何にも作ったような高笑いで宰相子息を指差した。
「恋とは落ちるモノですのよっ!!」
頭の中で鐘が打ち鳴らされたように激しい目眩がする。
「幾つ理想を並べても結構ですわ。でも一度恋に落ちたらそんたモノ……風の前の塵と同じっ!」
フフン、とイリアは鼻を鳴らす。まるで項垂れる宰相子息を追い立てるように。
「外見も年齢も性格も何もかもが、好きになったら何の意味も成さないのですわ」
「俺は……」
とうとう宰相子息は顔を片手で覆った。今自分が見苦しい表情をしているのは分かっているが、それを隠したいというよりは、支えないとそのまま頭から崩れ落ちそうな気がしたのだ。
イリアの言う通り、自分は理想で恋愛をしているような気がしてきた。いや、イリアが正しいのならば恋愛さえ出来ていないという事になる。
では、今までの経験は何だったんだろうか。恋愛でさえ無いというのなら……あれは、ただ条件を擦り合わせているだけの、いや……それこそ、遊び……か。
両親や姉達やその他大勢のこの国の人々のように恋愛結婚をするのだと思ってきたが、そもそもそのスタートラインにも立てていなかったようだ。
宰相子息は深呼吸を二、三度繰り返したがそれでも楽になれず、指の間から夜空を仰ぎ見た。満月がやけに大きく明るく感じられた。視界に映るのはそれだけで、気持ちを穏やかにしてくれる。目を閉じて再び深く息を吸った。
「……どうすれば」
「え?」
「どうすれば、恋に落ちる事が出来ますかねぇ?」
いつもイリアに接する時の揶揄い混じりの楽しそうな声音では無く、落ち着きを取り戻し始めた低く良く通る声だった。
対して、宰相子息の絶不調な様子から「勝った!!!」と喜び勇んでいたイリアであったが、突如変わった雰囲気にまだ着いて行けないようで、目を白黒させている。
「え、あ?えっと……落ちようと思って落ちるモノじゃ無いの……突然よ!突然!!」
イリアは腕をバタバタさせて上から下へ「落ちる」「落ちる」と取り乱していた。余程、令嬢らしからぬ行動だったが、イリアは(本の受け売りだから聞かれても困るっ!と)激しく狼狽していたせいか何度も繰り返していた。
相変わらずの妹ちゃんの言動が可笑しくて、宰相子息はくすりと笑った。
「じゃあ……今、恋に落ちても良い訳ですね?」
勿論、宰相子息はまだ恋に落ちてはいません。いつもの調子を取り戻してきたところです。