兄と書いて非マッチョと読む2
少し間があいてしまいました。
小説を読むのに夢中になると、自分のが疎かになります……。
わたくしイリア・ノーランドは、前世の記憶を持って生まれてきてしまった為に、違和感と嫌悪感を抱いて生きていた。最初の内は何故そんなことを思うのか分からなかった。
大好きなお父様やお祖父様に抱き締められるのがイヤなんて・・・。
何も意地悪をされていないのに執事や男の家人が近づいて来ると、ビクッと肩を震わせてしまうなんて・・・。 根拠のない嫌悪感に、日々居たたまれなくて、申し訳なくて・・・。
だが、そんな感情を前世の記憶のせいだと明確に理解したのは、お兄様が正騎士になりたいと言い、その年一番の騎士を決める大会に家族皆で観戦に行き、多くの騎士達を見た瞬間だった。
ーーマッチョキモイ。
わたくしの脳裏に浮かんだソレ。
その意味と共に前世の記憶が頭の中に流れこんできて、目眩がした。
深呼吸して、改めて騎士達を眺めて愕然とした。
家族や領民達だけではなく、ここにいる全ての男達がほぼムキムキのマッチョだったことに……。
そして、お兄様の瞳がキラキラと輝いていることに・・・恐怖した。
ーーお兄様があんなんになってしまうなんてっ!!
わたくしは直ぐ様行動を起こした。
筋肉質にならない為の鍛え方を記憶の底から引っ張りだし(なかったけど)研究した。その鍛え方を実践してもらえるようお願いした。訝しむお兄様にムキムキマッチョよりうっすらマッチョの方が如何に美しいか力説した。筋肉は重いから水に浮かばないとか、スピードが落ちるとか、力持ちであることが『強さの証明』ではないとか、かんとか・・・。最後には「マッチョになったらお兄様のこと嫌いになるっ!」と脅し、「マッチョイヤーーマッチョイヤーーマッチョイヤーー!」と泣き喚いた。
そんな説得の甲斐あってか?お兄様は渋々といった感で、マッチョを諦めてくれた。
わたくしはうっすらマッチョであることや鍛えること自体を反対している訳ではないので、お兄様の器用さと俊敏さと努力家な所を活かして「剣士って格好いいよねっ!」と勧めてみた。良い線いっているらしい剣の道を、更に極めた騎士になればいいなぁと思ったのだ。
お兄様はうっすらマッチョになる新しい鍛え方に挑戦してくれた。わたくしの前世の記憶はまるで役に立たなかったので、試行錯誤の連続だったし、勿論失敗もした。落ち込むわたくしに、お兄様は「大丈夫だよ。」と笑ってくれた。
だが、努力家のお兄様にとって大変だったのは、新しいことへの挑戦ではなかった。
この『筋肉至上主義』の国の中で、健康にもかかわらず非マッチョであるべく動くお兄様は異質だった。
人々の冷笑や侮蔑が少年だったお兄様の心を容赦なく傷つけたようだ。それまで以上に鍛練に打ち込み友達とも遊ばなくなった。騎士見習い期間を終えた頃には幼さが消え、厳しさがあった。
お兄様はその剣の腕でマッチョどもを黙らした。
そして、正騎士の中でも上位たる騎士団団長へと登り詰めたのだ。
勿論、否定の声はまだある。だが、騎士は実力がものをいうようで概ね認められているようだ。
お兄様。
我が儘を言って、ごめんなさい。
迷惑を掛けて、ごめんなさい。
友達もいなくなっちゃったみたいで、ごめんなさい。
心も身体も傷つけられたみたいで、ごめんなさい。
今でもマッチョのお兄様はイヤーーと思ってる酷い妹で、本当にごめんなさい。
でも、謝罪しておいて後悔はしていないの。
お兄様は、わたくしの癒しだから。
非マッチョの作り方?です。
読んでくださってありがとうございます♪