正騎士の逆襲
南の次男坊が何歳かなんて覚えてないが、今はまだ若いとしても年をとるのだ。兄か宰相子息のように独身貴族になってしまうぞ。
「隠れてないで、恋人でも作ってきた方が良いんじゃないかしら。え~と、二十?越えてるんですものね?」
親に(あるいは南の侯爵夫人にも)自分の恋愛事情を知られているのでは、と恥ずかしく思い、しどろもどろに訊ねてしまう。
「二十歳ちょうどだ。興味ねえ女に迫られたって仕方ねえだろ」
おお。南の次男坊、初の恋バナだ。ちょっと興味あるような無いような……いや、初だから気になるかも!
「何ですって、南の。好きな人でもいらっしゃるのっ!?」
女友達の恋バナは良く聞くけど、年の近い男の恋バナなんて聞いたことない。兄のそういう話も聞かないし、いや、聞いたら聞いたで恥ずかしけど……なんか、ちょっと、揶揄ってみたいかも。ドキドキしてきた。
「黙ってないで教えてくださる!?あなたの好きな人がどんな人かちょっと興味あるわっ」
「……何で興味あんだよ」
理由を聞かれても、一瞬返事に詰まる。少し人でなしな理由だ。まあ、いいか、今更な関係だ。
「揶揄いたいから?」
南の次男坊が盛大に溜め息をついて、詰まらなさそうにバルコニーの外に視線を戻す。
「……ねえ、それは、何なのかしら?」
「何でもねえ」
「溜め息ついて何でもない訳ないでしょう」
黙られると余計に気になる。ニヤニヤしちゃう。
「別に邪魔しようって訳じゃありませんわよ?純粋な興味?あの口が悪くて(今もだけど)柄も悪くて(今もだけど……)会えばケンカばかり吹っ掛けて来る(今も※以下略)どうしようもない、あ・な・た、のっ」
小さい頃から、全然変わってない!変わったのはマッチョになったって事だけだっ!!昔を思い出してたらちょっとイライラしてきた!!!邪魔はしないけどメチャクチャ揶揄ってやりたいっ!!!!
「好きな人っ!ねっ!仰いなさいよ!」
「……言っていいのか?」
ん?
なんか凝視されてる。
今までのケンカなんか半端ないくらい目力強いんだけど。
「言っていいんだな?」
あれ?
なんかヤバイ方向へ行っている?
身の危険を感じる、というか……。
二人の間に結構距離があった筈なのに、あっという間に詰められて腕を取られる。
「い、い、いや、やっぱり言わなくてい――」
「――嫁に来い」
………………。
………………。
はっ。固まってた。
えっと。
「……せ、政略結婚?」
「そんな必要あるか?」
そうだ、必要無い……。
この国は恋愛結婚の国。
父も母も恋愛結婚だし、南の長男夫婦も恋愛結婚だし、国王夫妻も(若干政略の匂いが無いとは言いきれないが)恋愛結婚だ。貴族も平民も関係ない。寧ろ政略結婚など嫌われそうなくらい、地位が低い。
なのに、イリアの口から『政略結婚』と、つい出てしまったのは前世脳の影響だ。
何故、南の次男坊に『嫁に来い』と言われたのか、意味不明。
どんな人が好きなのか?と聞いていた筈なのに、何故そこで『嫁に来い』となる?
否!
本当は解っている。
ただ、耳が聞きたくないと言っている。
脳が処理したくないと言っている。
心が 拒否したいと言っている。
わわわわわ、ななな何で、こんな展開にっ!?
展開か遅いのて爆弾投入してみました。
いつもありがとうございます♪
イリアの台詞の語尾だけ編集しましたが、内容には一切変更ありません。