ワルツじゃなくて、ポルカを踊ろう
ワルツじゃなくて良かった、とイリアは思った。
前世地味OLの認識では、ワルツはくっついて踊るモノ。
王子とワルツを踊る……つまり、マッチョを目ではなく身体で感じる、って事だ。
お、恐ろしいぃ。
上美青年(恥ずかしい)、下マッチョ(恐ろしい)。
なんて、黙りこくったイリアの胸の内など知らない王子はぎゅっと手を握ってきた。ドキッとして顔を上げると王子は幸せそうな明るい笑みをイリアに向けていた。そして再び手を握り締めた。
動く、という合図だった。
軽快な音楽に合わせステップを踏みながら小さな輪の流れにスッと入る。
王子のリードに身を委ねてくるくる回りながら前のペアに続く。
いい加減、目が回りそうになるタイミングで跳ねるだけのステップになり息を整える。再びくるくる回りながら皆で小さな輪を作ってゆく。王子の手が遠く離れ、男性陣が内に輪を作り、その外で女性陣が輪を作る。リズムに合わせタ、タンッと手拍子する。
再び王子の手がイリアの手をぎゅっと掴んだ。でもそれは一瞬で王子の手は後ろの女性の手を掴む。イリアも前の男性の手を取る。くるくる回る。王子は更に後ろの女性の手を掴む。イリアも更に前の男性の手を……そして、くるくる回る。
不意に視線を感じ、そちらを見遣る。
王子と目が合ったので慌てて反らす。かといって、今組んでいる男性の顔を見ることも出来ず下を向く。小さい頃から踊り馴れた足は縺れることもなくステップを踏んでゆく。
相手が代わる時に少しだけ顔を上げてみた。
王子と目が合い……やはり反らす。
その間もくるくる回る。
くるくるくるくるくるくる……。
輪は一周し、王子が再びイリアの手を取った。
音楽は鳴り止んだが、大きな拍手が広間を彩る。
見学していた者達が笑顔で讃え、踊っていた者達もお互いを讃える。
少しの後ゆったりとした音楽が流れ始め人々は休憩とばかりに談笑し始める。
王子はイリアを見つめていて、イリアも王子の目を反らせなかった。
踊り終えたはかりの二人の息は荒く頬は上気していて、鼓動は早鐘を打ち 心地よい疲労感が襲う。
繋がれた手から互いの熱さを感じる。
「――楽しかったな」
「はい。……楽しかったですわ」
ぽつりと王子が言ったので、ぽつりとイリアも返した。お互いに声音は乾いていた。
恥ずかしかったけど、楽しかった。身体が熱いのは、頬が赤い気がするのは、激しく踊ったせいだ。何故なら皆、顔を赤くしているもの。
イリアは伏せた瞳を、ちらりと上げた。
王子が目を細めたので、釣られてイリアも相好を崩した。
いつもの社交辞令の笑みではなく、心からの笑みだった。
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