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イリア16歳、社交会デビュー2

お兄さま、とそう言いたいのに口はパクパクは動くだけ。


「綺麗だ、イリア。見間違えた」


そう言う兄の方こそ騎士団の正装用の白い軍服姿が眩しい。イリアから離れた時にジャラジャラと揺れた余計な飾りがなければシンプルでなお良い。先に王宮入りしていた兄は仕事中な筈だが暫くエスコートしてくれる様だ。

兄の優しい気遣いが嬉しくイリアは深呼吸した後、礼を言った。


「ちょっと緊張しましたの。こんなに沢山の人に見られたことってあまり無いので」

「緊張?珍しいな。大丈夫か?」

「はい、お兄さまのお陰です。……お仕事よろしいんですの?」


ラッパが鳴り招待された平民が紹介され人々の注目がそちらに移る。邪馬にならないよう入口から離れる。両親は時間がないので他の貴族と挨拶を交わし始めた。

兄がウェルカムドリンクを給士から受け取り一つをイリアへ手渡す。


「ああ、(仕事なら)大丈夫だ。イリアより大事な物は無いからな」


兄は微かに苦笑して「乾杯」とグラスを傾ける。イリアも少し頬を染めながら「乾杯」とそれに合わせる。


「ふふ、お兄さま。そういうことをちゃんと女性におっしゃっていれば、今頃結婚しておりますでしょうに……」


一応社交の場なので兄相手だがイリアは猫を被って揶揄った。

グラスの中身は酒で、未だ成人を迎えていないイリアは本来なら飲めないのだが、今夜は社交会デビューのお祝いだからと少しだけ許されたので、口の中で転がしながら味わってみる。久方ぶりの酒は白ワインに近く甘めで飲みやすかった。前世ではカクテルなどの甘い酒しか飲めなかったので、欲を言えばもう少し甘味があると良い。力クテルなどの酒の作り方を一切、知らないのが悲しい所だ。

暫くイリアとしては初めての酒に浸っていたが、兄が無言なのを訝しく思い首を傾しげながら見上げた。


「お兄さま?」


「……いや」


兄は目を伏せてグラスに残っていた酒を全て飲み干した。


「イリアも、もう結婚出来る年になったのだと思って」

「ぶぶっ!!」


イリアは喫驚して口に含んだ酒をグラスの中に吹いてしまった。慌てて辺りを見回すが兄以外には気付かれていないようで、ほっと胸を撫で下ろす。

折角の酒なのに、これはもう飲めないなと残念に思いながら、猫を被り直す。


「お、お兄さまったら!わたくしよりお兄さまの方が先ですわっ!!」


兄より先に結婚したく無いと思いながら、苦笑する兄から渡されたハンカチで口元を拭う。

礼を言いながら兄を軽く睨む。そもそも吹いたのは兄のせいだ。


「そうだな、しかし」


イリアの睨みなど何処吹く風で、兄は美しい顔を近付けてきた。近過ぎて焦る。兄妹の距離感として、どうなのか。

おまけに耳元で囁かれると擽ったい。


「イリアより大事に思える女性に出会え無いのだから仕方ない」


ぐわぁぁぁん、と頭の中で鐘が鳴った気がした。妹に言う台詞じゃ無いだろ!と突っ込みたくなったがそれも抑えた。一瞬放り投げそうになった気を掴み直して、直ぐに離れた兄を睨んだ。

恐らく、いや絶対、羞恥に赤く染まった顔では兄を睨んだ所で何の意味も無いことぐらい分かっていた。

案の定、兄は笑っていた。

何とも形容し難い微笑だった。困ったような、嬉しいような……。

兄はその顔を隠す様に、兄の大きな手が伸びてきてイリアの頭をポンポン、と叩いた。


もう、文句も言えなくなってしまった。




お酒は二十歳になってから!!


暫く宰相子息とイリアの会話ばかり書いていたから、危うく兄との会話も意地悪調な方向へ行きそうでした(;^_^A

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