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兄と妹と招かれざる客1

お久し振りですみません


とあるお屋敷の、広い玄関で、笑顔の男と笑顔の少女。

 その間の玄関扉が、彼此五分程、一進一退を繰り返している。


「お招きしておりませんわよ(とっとと帰れ)」


「悪友に用があってね」

「その様な名前の方は当方に存在しませんわ」

「君のお兄さんだよ、俺達友人なんだよ」

「まあ。ほほ……。兄に青髪茶眼の友人はおりませんの」

「君が知らないだけじゃないかなぁ?秘密にされているんだねえ」


クスクスと男が笑う。

ハラハラと家人やメイドが見守る玄関は、二人の会話が止まれば途端に静かになる。

少女の頭の血管が切れた音を聞いたような気がした。


「……!ええ、ええっ、そうですわっ!!貴方みたいな人と係わりがあるなんて秘密にもしたくなりますもの!!!」

「……いやいや。君が信用されて無いだけじゃないかなぁ?」

「……兄はわたくしを信じてくれてますわ(知らんけどシスコンだから間違いじゃないよね)!」

「俺も。俺達は信用の置ける友人だと信じているよ」

「兄は貴方のことなんて友人だと思ってないわ!……って、先日も言いましたわよねぇっ?(勝手に悪友から友人に格上げするな!)」

「君に言われても、ねぇ。俺は君の事を信用している訳じゃないし」

「あら、そうですわね。わたくしだって貴方の『俺達友人』って事、これっぽっちも信じておりませんわ!」

「でも、俺達悪友なんだけどねぇ」


男は笑顔で宣い首を傾げる。

少女も笑顔ではあるが、表情筋がピクピクと悲鳴を上げ始めている。

家人やメイドは真っ青で誰でもいいからと助けを求めていた。


「(友人って言ったり悪友って言ったり――!)仮に貴方が兄と友人でも、ちょっと係わりがあるだけの人でも、どうでも良いんですのよ、要は」


そして少女は笑顔を作った。

文字通り作った笑顔であったことは、その場に居た全員が分かったが、邪気の無い、花が咲き誇るような美しい笑みに誰もが見惚れてしまった。

が、残念なことに、その笑顔から飛び出たのは……。



「とっとと帰れ!!二度と来るなぁっ!!!」



男の手が弛んだのを機に少女は一気に玄関扉を閉めようとする。


「イリアちゃん……」


閉めようとして、閉められなかった。

少女を窘める女の声に、執事の手に、止められてしまった。







嫌な予感がする。


と、書類が山のように積み重なっている机の上から頭を上げたのは、北の侯爵令息・イリアの兄であった。

騎士団の副団長職に就く彼は、王宮の一室に設けられた騎士団の執務室で、団長が丸投げした仕事を仕方なく肩代わりしていた。

五月蝿い知人を数刻前に追い出してから、脇目も振らず書類に目を通し計算しサインをし、と仕事をしていたのだが……一向に終わりそうに無い。団長のせいである。一体、何日分の仕事を溜め込んだのだろうか。

団長がさぼっているのだから、副団長がさぼっても何の問題もあるまい、と彼は上着を羽織り執務室を後にした。



裏門に続く裏庭に一匹のディセルが居た。

馬よりも一回り小さいが、高山に暮らす為か脚力があり跳躍力がずば抜けて高い、鹿に似た生き物だ。額に二本の雄々しい角があり、雄だと分かる。

草を食んでいたが不意に、足を止めた彼を見る。

彼もディセルに近付き足を折って、その澄んだ瞳を見つめた。

と、と、と、とディセルが門を出て行って、くるりと彼を振り返る。

「乗れ」と言っているかのようだ。

崖を行くディセルに乗って北の街に行けるなら、馬で通りを行くより断然早い。

有り難い、と頭を垂れて彼はディセルの元へ向かった。





ディセルは架空の生き物です。鹿やガゼルをイメージしてます。

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