恋愛守備範囲の意味を考えてみる、宰相子息2
ちょっとノッてしまい、いつもより長くなりました。
あくまで当社比です。
俺は騎士団の執務室でソファに座りながら、俺の存在を無視して仕事を続ける男を見た。
部屋の主と言うべき団長は、相変わらず副団長に書類仕事を押し付けてサボっている。何処に居るのかは見当が着いている、自宅だ。
「そう言うな。結婚十三年、待望の男の子なんだから」
軽く団長に対する文句を言えば、悪友は苦笑しながら俺を窘めた。勿論俺は本気で団長を扱き下ろしている訳ではなく、悪友もそれを分かっているから(先程までとは変わって)強く言ってこない。
団長は俺達より六つ年上の三十一歳なのに、既に娘三人と末っ子長男の四人の子を持つ父親だ。成人して直ぐに結婚し数年後には父親になったのだ、正直尊敬する。悪友も自分も二十五にもなるのに結婚もしてなけりゃ、勿論子供もいない。団長はサボリ魔で飄々として飲んべぇで剣の腕は兎も角、団長としてはちょっとどうかも……と思う時もあるが、四児の父親をちゃんとやれてる、という一点で男として尊敬に値するのだ。
勿論そんなことは俺も悪友も、口に出しも表情に出しも絶対に、しないが。
「しかし、年の離れた姉三人か……女嫌いになりそうじゃないか」
「それか、お前のように無類の女好きに、か?」
悪友は、団長の息子と同じように姉が二人いる俺を見て薄く笑った。
俺が女好きなのは姉達のせいではない。
口煩くて我儘で理路整然としてない言葉を、キャンキャン吠えられ続けたら、女嫌いになるに決まっている。姉達(母含む)のせいが一つあるとしたら、それは女の好みが、精神が子供ではなくしっかりした大人の女、という点だろう。
ドアをノックして「失礼します」と見習い騎士の少年が入室して来た。お茶の時間になったらしい。彼らは毎日交代でお茶を淹れに来るのだが、素人なのと滅茶苦茶緊張しているのとが相俟って美味しいお茶を淹れられない。
まあ、緊張の理由は知れているので二人は何も言わない。もし、ここに団長が居たら「鬼の副団長と未来の宰相にお茶なんか淹れられねーよな」などと場の空気を壊して(しかもそれに気付く事もなく)大笑いしてただろう。何で団長になれたのか、疑問だ。
そういえば、団長は息子を騎士に、それも親子揃って団長にするんだ!と息巻いていたことを思い出す。
「私みたいな女好きか、貴方みたいな女嫌いの団長か」
団長の息子の将来を想像して、ポツリと口から出る。
見習い騎士の少年がいるので、一人称が『俺』から『私』に変わったが、悪友はそれには触れないで首を傾げた。
「私が……女嫌い?」
と、訊ねたのは俺ではなく少年だった。
藤色の瞳に睨まれて少年は目に見えて震えた。
悪友は決して睨んでないのだが、普段の印象から睨まれていると少年は思っているはずだ。
ついでに俺も首を傾げてあげる、笑いながら。
二人に見つめられた少年はホント可哀想だ。
「あ、う、う噂がっ、あ……り、ますぅ」
搾り出すようにそれだけ告げた少年の言葉を引き継ぐべく、俺はソファから立ち上がって悪友の机越しに顔を近付けた。
「その噂が、笑ってしまうんですけど、ね」
剣呑な瞳で悪友は俺を見る。
「わっ」とか「えっ」とか言ってる少年の熱い瞳の期待に添うよう、悪友の顎を掴んでくいっと、上げてみせた。
「私と貴方が出来てる、とかいうんですよ」
クスクス笑う俺の手を払い除けながら、悪友は唾棄する瞳で俺を見る。呆れも混ざっている。
やはり兄妹だな。
目に宿る光が似ている。
「お前は女狂いで有名じゃないか」
悪友は椅子に深く座り直しながら少年に目を向ける。それを受けて少年は縦に首を振った。激しく、だ。
おいおい……強要するなよ。
それに、女狂いじゃなくて女好き、な。
「女好きが過ぎて、男に走った。という訳らしいですよ。
近くには女嫌いの副団長……二人は出来てる!と、こうなる訳です」
「訳……が解らない。何故そうなる」
やれやれ、と悪友は首を横に振って少年に退室を促した。
退室するタイミングを窺っていたらしい少年は、ほっと息をついて出て行った。
が、お茶の道具を持って帰るのを忘れている。
まあ、いいか、有り難く使わせて貰おう。
俺は(自分で言うのも何だが)慣れた手付きでお茶のおかわりを淹れる。
悪友にお茶を手渡しし、机の端に腰を掛けた。
悪友が文句を言う前に、口角を上げる。
「そういう訳で、妹ちゃんに会っても何の問題もないだろう?」
「お前が本気で男に走ったのなら、問題ないな」
間を置かず言われ、俺は苦笑してしまった。
妹狂いは本物らしい。
もし、俺が本当に男に走っていたら……問題となるのは悪友の方じゃないのか?
妹ちゃんを守る為に自ら犠牲になるとは、頭が下がる……ぷっ!
ビーエルでも腐男子でもありません。




