恋とはどんなものかしら、と王子は思った3
王子、ヘタレ。
イリア嬢と会いたい。
イリア嬢と話がしたい。
だか、接点がない。
一度、王宮の中庭の四阿でイリア嬢を見た。妹姫や他の令嬢とお茶会をしていた。
羨ましかったが話し掛けられなかった。
彼女が見たことのない表情で楽しそうに笑っていたからだ。
あんな笑顔を、今の自分にさせる自信がなかった。
そのまま何も無く一年近く過ぎ、俺は十八歳、成人していた。
従兄弟である従者が、イリア嬢とのお茶会をセッティングしてきた。
ソレは有り難いのだが・・・。
いつの間にイリア嬢と会話する仲になっているんだ?
・・・今は何も聞くまい。
その日。
イリア嬢が俺の私室に訪ねて来た。
ニコニコと従者が迎えに行き応接間に招き入れた。
ソファに腰掛けていた俺は立ち上がって「ようこそ」とだけ、言えた。
イリア嬢は「本日はお招き頂きまして――」と形だけの礼を述べ、促されて向かいのソファに座った。
こうやって、正面から向かい合うのは実に三回目だ。
が、俺は彼女の顔を見ることが出来なかった。
従者が何やら話し掛けイリア嬢は苦笑する。
二人の言葉は耳に届いているのに、内容が入って来ない。
従者は相変わらずニコニコとしながら、紅茶を淹れた。
「――殿下?」
従者が心配そうに、訝しげに俺を覗き込む。
俺は、はっとして、謝辞を言いながら紅茶を受け取った。
何だか、奴の目が見れない。
従者は少し首を傾げながら戻ると、デザートを用意し始めた。
「大変美味しいですわね」
最初、その言葉が俺に向けられて出たものだと気付かなかった。
チラリとイリア嬢を見遣って、目が合って、内心狼狽える。
「あ、ああ。・・・美味しいね。こいつは、この一年で随分と向上したよ」
俺の言葉にイリア嬢は目を細めて静かに頷いた。
微かではあるが。
今。
笑っていた・・・よな?
「か、可愛い・・・」
「?今、なんと?」
「いや、何でも――」
何でもない訳あるか?
いや、ない。
「可愛い・・・と、言ったんだよ」
「・・・・・・・・・・・・は?」
聞こえなかったのなら、もう一度。
耳が拒否したとしても、もう一度。
「可愛い」
イリア嬢は瞬時に顔を赤く染めた。
背を向けて作業をしている従者は気付いていない。
真っ赤になって恥じらい気に目を動かすイリア嬢を見たのは俺だけだ。
「な、ななな何を仰ってますのっ!?」
どもっている。
う~~ん。
それさえも。
「可愛いなぁ」
「ででででで殿下ぁ!?」
うんうん。
慌てふためいている。
此方が素なのだろうな。
冷たい口調より冷めた視線より、此方の方が可愛くて良い。
イリア嬢のどもりっぷりに、流石に従者も気付いて「どうなさいました?」と首を傾げてくる。
その手には苺をふんだんに載せたケーキがあって、イリア嬢の瞳はそれに釘付けになっていた。「何でもないですわ」と答えるイリア嬢だが、その瞳がケーキから外されることはなかった。
俺は思わず失笑してしまってイリア嬢に睨まれてしまった。
睨まれたのは、照れているからだと思ったので胸は傷まなかった。
寧ろそれさえも。
『可愛い』と思った。
本日二話目になります♪
よろしくお願いいたします!!