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|公爵家嫡男《側近》とイリア3

側近とイリア♪というか、側近と王子♪です。



殿下は訓練を引き揚げて王宮にある王子の執務室に戻りました。その間殿下はずっと黙っていて(いつもより遅いペースで)歩いていましたので、僕も護衛の騎士も黙っていました。殿下の後に続き僕も部屋に入り護衛の騎士はドアの外に待機しました。殿下は椅子にではなく応接用のソファに、雪崩れ込むように座りました。

ソファに座っても殿下は何も喋りませんでした。何をするでもなく顔を伏せています。時折、長く息を吐くのが聞こえますが取り敢えず無視して、僕は窓を開けて風を呼び込みました。少しもあっとして生暖かいですが風があった方が気持ちが良いので、そのままにします。

シャワーは浴びられないようなので、水に浸したタオルを固く絞って渡します。殿下はそれを受け取り、上衣を脱ぎ身体を拭き始めました。相変わらず何も喋りませんでした。いつもなら礼の一言くらい言われますが何もありません。

僕は飲み物を準備します。紅茶()に摺り下ろしたフルーツジュース(ジュドゥフリュイ)、それから()です。『氷の帝国』から輸入した貴重な氷で冷やしてあります。汚れたタオルを受け取り、飲み物はどれが良いか伺います。


「――それとお水てす。熱中症予防にはこまめに水をとるそうです」


ここで初めて殿下が僕を見ます。

その瞳は驚愕に開かれていて、『?』が浮かんでいます。


「な・・・ぜ、知って、る?」


さっきは『ねっちゅうしょう』など知らないと首を振っていただろう、と口にします。

確かにその時は知りませんでした。だから尋ねたのです。


「はい。勿論あのお嬢さんにお聞きしました」


殿下の瞳が更に大きく見開かれました。何故か不穏な光りを湛えていて・・・怖いです。

僕は心の中で深呼吸しました。


「殿下が病に罹らないように情報を仕入れるのは、従者として当然の務めです」


僕は胸を張って答えました。

疚しいことは何もありません。

何も・・・はい。


殿下は僕を見つめてきます。穴が開くくらい、じぃぃっと見つめてきます。僕が女の子だったら恥ずかしくなっていたかもしれません。ですが僕は男なので、見つめられても(なん)にも感じません。ちょっと怖い瞳ですが、悪意を持って睨まれている訳でもないようなので、僕も殿下の目を見返しました。


殿下の碧色の瞳はとても綺麗な色をしています。長く一緒に居るのに、こんなにまじまじと見たことはなかったな、と思いました。僕と殿下は従兄弟で、僕の目は深い緑色なので似てるといえば似てますが、ただ似てるだけです。僕は王宮の塔の裏にある翡翠の池のように透き通った、この美しい瞳を羨ましく感じました。

今は不穏な翳りが見えますが、そんな事は大して気にさせない強さがあります。


殿下は水を一気に飲み干して息を吐きました。



「・・・俺のことは、何か、言っていたか?」

「いえ、何も」

「・・・そうか」


僕は(なん)と言っていいか分かりませんでした。

でも僕は分かりました。

殿下がゆっくり歩いていたのも。

ずっと黙ったままなのも。

僕を見る目が、明らかに不穏な光りを帯びているのも。


熱中症という病のせいではありません。


殿下は 恋の病という奴に罹ってしまったのです!


遅筆で申し訳ありません。

読んでくださってありがとうございます!



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