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ユジン 14-AE

2016年/

火星への人類移住プロジェクトが本格始動。

2030年/

地球機密レベルでの火星到達に成功。

2035年/

火星資源NMP類発見

2038年/

火星移住開始。第1次人類移植期。

2041年/

火星の外殻を利用して惑星規模のコロニー建設が始まる。

2050年/

人類発の完全グラウンドコロニー完成。

第2次人類移植期。

コロニー名称:「ヴェルツオーグ」

2052年/

火星とヴェルツオーグとを結ぶパイプシステムが何者かによって破壊される。

ヴェルツオーグは、

自治政府「惑宙連邦ヴェルツオーグ」を樹立し、

地球に総攻撃をかけ、地球連合政府を制圧。

ヴェルツオーグの目的は、自称する最高の人間・ヴェルツオーナの為に地球と火星を植民地にすることだった。人類すべてはヴェルツオーナとヴェルツオーグの生贄なのであると惑宙連邦ヴェルツオーグ書記長:オライダム・ゼファーは言い放った。

地球が制圧されたことで地球と運命共同体であった火星もヴェルツオーグの支配下となったが、

地球連合火星議会主務研究員のニシダ博士は、先の戦闘中に、若き研究員・九条ユジンに「月衛星のシュロンに行き、この乱世を生きのびろ」と言い、「博士に頼まれていたこれを渡すんだ」とコンパクトボックスをユジンに手渡して戦火の中で果てた。シュロンには、火星議会が極秘に建設していたミディアムシェルターがあり、人類史上最も優れた研究者と言われるシュナイター特務博士が常駐しており、未だにヴェルツオーグの侵略を逃れていた。そして、ユジンがニシダ博士から預かったものは、シュナイター特務博士からリクエストされてニシダ博士が作った特殊なバイオグラムであった。

 バイオグラムとは、火星資源NMP類をもとに、微量の太陽光で無限に増殖を続ける事が出来る「終わりなき燃料」の元素で、ニシダ博士は、シュナイター特務博士の指示で、増殖スピードを最速にした特殊なバイオグラムの開発に成功していた。

 特殊なバイオグラムをシュナイター特務博士に渡すべくブースターに乗りシュロンを目指そうとしたユジンだったが、ヴェルツオーグ兵団に捕らえられ、火星脱出前に反抗分子収容キャンプに強制収容されてしまう。



 火星のフェイスロックエリアに設置された第14反抗分子収容キャンプは、A(60才未満男性のみ)、B(60才未満女性のみ)、C(60才以上男性のみ)、D(60才以上女性のみ)、E(特定危険分子のみ)の5ブロックに分かれている。ユジンは、Aブロックにいた。「14-A」と右手の甲にレーザーマーキングされている。

 シュナイター特務博士に渡す筈だった特務なバイオグラムはコンパクトボックスにはいったまま、Aブロックの管理官に没収されて、今はどこにあるのか分からなくなっている。コンパクトボックスは暗号ロック式になっているため、ユジン以外の他人が開けることは出来ない。

 コンパクトボックスを没収し監視兵たちは、上長であるライド少尉にコンパクトボックスを「開閉不可能でセンサーチェックもできない不審物」として報告し、提出していた。

 ライド少尉は、自らのオフィスにユジンを連れてこさせ、暗号を入力してコンパクトボックスを開けるように命令した。ユジンは、わざと暗号を間違えて、開けず、コンパクトボックスが故障していると主張したが、その嘘はすぐにライド少尉に見破られて、ユジンは、特定危険分子扱いとなりEブロックに強制移送収容された。ユジンは、右手の甲に「14-AE」とあらたにレーザーマーキングされた。


 Eブロックは、犯罪者の溜まり場。見た目からして凶悪な連中ばかりがいる。ゴロツキ連中から新入りと呼ばれていびられていたユジンを助けたのは、コクリュウという名の凶悪犯だった。コクリュウは、レーザーマーキングされたユジンの14-AEに興味をもっていた。

「めずらしいマーキングだな。どういう意味だ?」

ユジンは、

「最初はAブロックにいた。俺の態度が気に入らないから、ここに移送された。だから、AEなんだろ」

とぶっきらぼうに答えた。

「お前、何をやった?」  

「何もしなかったからこうなったんだ」

コクリュウは、それ以上、ユジンに質問しなかったが、この日以降、ユジンを監視するかのように、ユジンの存在に常にコクリュウは意識をはらい続けた。

 Eブロックのボス格のひとりであるコクリュウのはからいでユジンがゴロツキ連中からいじめられることはなかったが、常に、妙な奴、という視線を浴びせら続けた。

 Eブロックは、言わずと知れた犯罪者収容ブロックで、他のブロックとは違って、男女が一緒に収容されているが、女たちも犯罪者や危険人物たちばかりで、まさにここはクセモノ揃いのブロックだった。


 ライド少尉は、コンパクトボックスを開けるように技術者たちに命令し、技術者たちは、コンパクトボックスのロックシステムを破壊する作業に取りかかっていたが、そんなに簡単に破壊できるシロモノではなかった。

 ライド少尉は、ユジンをまた連れて来させて質問した。

「私はこの収容所の分所長になる前は、ヴェルツオーグの情報部員、つまり、スパイとして火星であらゆる情報収集にあたっていた。その頃に得た情報の中に、火星議会主席研究員のニシダが、特殊なバイオグラムを開発しているという話があった。何のためにそんな開発をしているのかまでは分からなかった。そして、革命戦火の影響で、上層部にとっては、ひとりの研究員の研究レベルというそんな情報はもうどうでもよくなったわけだが、私としては、個人的にニシダの研究内容にはとても興味があった。お前はニシダの下にいた研究員だったそうだな。コンパクトボックスにはニシダが開発したバイオグラムが入ってるんじゃないのか?」

ユジンは、コンパクトボックスの中身は、自分が研究開発した液状クリームが入っているだけだと嘘を言った。

 ライド少尉は、ユジンのこめかみに、超音波チップを埋め込み、

「お前の嘘は私には通用しない。そのチップは、お前の体温が一定化すると、つまり、お前が眠くなると、お前の脳に激痛を与える。お前が嘘をつかずにコンパクトボックスの中身を正直に言えば、チップを外してやるが、言わなければ、お前は激痛により、眠る事ができないままになるだけだ」


 その日から、ユジンは、激痛により、睡眠をとることができなくなった。不眠状態になってから、40時間も過ぎたら、ユジンは、ぐったりとなって、意識が朦朧となっていた。ユジンの様子に気がつき、こめかみに埋め込まれたチップの存在を把握したコクリュウは、部下のダンイに命じて、ユジンのこめかみからチップを取り除いた。

 コクリュウは、悪名高き宇宙海賊ブラックソサイエティーの頭目で、ダンイはコクリュウの右腕的存在の凄腕の闇技術者であった。

 チップ除去と同時に深い眠りについたユジンが目覚めると、コクリュウは、

「この施設内で、チップまで埋め込まれてるなんてまともじゃねぇな。ともかく、お前の命を救ったのは俺たちだ。俺の質問に答えてもらうぞ」

と言った。ユジンは、コクリュウの質問に答えることにした。

 コクリュウからの質問は、ユジンがEブロックに移送されてきたのはなぜか? こめかみにチップを埋め込まれたのはなぜか? そして、お前は誰か?であった。

「俺は火星議会のニシダ主席研究員の部下の九条ユジン。戦乱を逃れて、月衛星のシュロンにいるシュナイター特務博士にバイオグラムを渡す為に火星から脱出する途中、ヴェルツオーグに捕まってここに収容された。Aブロックのライド分所長にバイオグラムの入ったコンパクトボックスを開けるように言われて、それを断ったら、ここに移送され、こめかみにチップを埋め込まれた」

 ユジンの説明は、コクリュウにとっては、はじめて聞く言葉や単語も多かったが、海千山千の宇宙海賊の頭目であるコクリュウはすぐにだいたいの事を理解した。

「そのバイオグラムは、そんなに重要なモノなのか?」

「詳しくは分からない。でも、シュナイター特務博士が最高機密の研究をしていたのは事実で、バイオグラムはその研究の要になるものだとニシダ博士が話していた」

「なるほど・・・。ま、よく分からんが、それがかなりのモノって事はよく分かる。で、お前はこれからどうするつもりだ?」

「どうしようもないよ。ここから出たいが、今の俺じゃ、どうしようもないよ」

「なんなら手を貸してやってもいいぞ」

「どういう意味だ?」

「俺は宇宙海賊ブラックソサイエティーのコクリュウ。名前ぐらいは聞いた事があるだろう」

「は、はい・・・」

「俺がここにいるのは、外で戦乱に巻き込まれるよりもここで寝てる方がマシだからだ。出ようと思えばいつでも出れる。ただ、目的もナシに外に出ても、さっきも言ったように戦乱に巻き込まれてめんどうなだけだ。だが、ここの暮らしにもそろそろ飽きてきてな。ちょうど何かおもしろそうなことはないかと探していた時に、お前が現れた」

「からかってるのか?」

「そうじゃない。俺たちは、宇宙海賊と呼ばれて人々から嫌われてはいるが、俺たちは、ただ、自分たちが生きる理由をいつも探しているだけだ。この戦争は俺たちがはじめたものじゃない。ヴェルツオーグと地球連合が勝手にやりあってる。俺たちにとってはどうでもいい。俺たちは、自分たちが生きる理由に相当する目的を見つけて、その目的を達成出来ればそれでいい。つまり、今は、退屈しのぎに、お前の目的達成に付き合ってみるのも、俺たちが生きる理由に相当するかな、と思ったわけだ」

「そんな遊び半分なことを言われても困るよ」

「おいおい、俺たちは、宇宙海賊だぞ。おもしろおかしく生きる事が大前提だ」

コクリュウが言う宇宙海賊の人生哲学は、ユジンには理解しがたい考え方で、ユジンは、コクリュウの申し出に対してすぐに返答できず、

「少し考えさせてください」

とつぶやいた。すると、

「考えてる余裕なんかないだろう?」

とコクリュウが強く言った。

「お前はこめかみにチップを埋め込まれたんだぞ。つまり、ライド分所長はお前が死んだら死んだでいいと判断したからだろう。ということは、ライド分所長はコンパクトボックスを暗号開閉するよりも、腕のたつスタッフに指示してクラッシュバールやレーザースパナを使って無理矢理こじあけるつもりなんだろう? もしかしたらもうコンパクトボックスを開けてバイオグラムを手に入れているかも知れないぞ。お前、それでもいいのか?」

「そ、それはまずい・・・」

「なら急ぐしかないだろ」

「で、でも、どうすれば?」

「その手のことは、俺たち宇宙海賊ブラックソサイエティーに任せときな」

 その時、ユジンは決心した。

 とにかく、コクリュウにすべてをまかせてみよう。どっちみち、自分ひとりではどうすることもできない。悪名高き宇宙海賊なんてまともな連中ではないが、今は、彼らしか味方がいない。それに、コクリュウは命の恩人でもある。むやみやたらと他人に危害を加えるタイプでもなさそうだ。

 バイオグラムをシュロンのシュナイター特務博士に渡す為には、少々の荒業もしなければならない。

 ここはひとまず、コクリュウと組んでみよう。

「分かった。どうするかは、あなたに任せる」

「では、お楽しみをはじめるとしよう」


 第14反抗分子収容キャンプ。もともとは地球連合軍の軍事拠点・フェイスロックベースだった。フェイスロックエリアに600haもの広大な敷地面積を持つ。ヴェルツオーグに占拠されてからは、反抗分子収容キャンプとしても使用されるようになった。

 A~Eブロックに分割されていて、各ブロックは、分所長によってピラミッド型組織形態で管理され、軍曹クラスの管理官、上等兵クラスの管理員、一等兵クラスの監視員、準等兵クラスの係員で編成されている。そして、分所長直属の警備隊と第14攻撃兵団が配備されている。収容キャンプと軍事施設を兼ねたキャンプである。

 収容されている人々はさまざまだが、管理システムは一律で、朝6時に起床、食糧車から朝食がバラまかれる。その後は、管理官から取り調べられる者もいれば、無理矢理に首輪を付けられて強制労働に就かされる日もある。何もなければ、基本的には自由にしていられるが、派手な遊びや喧嘩騒ぎは懲罰の対象となる。夕方17時にまた食糧車から夕食がバラまかれ、19時には消灯しなければならない。夜間にマイスペースから外に出た場合は、命の保障はない。


「とりあえず、ここには、今の俺たちに必要なものがすべてある。武器、弾薬、燃料、食糧、そして、高速艇。ミディアムクラスのスペースシップまである」

コクリュウの言う通り、軍事施設を兼ねたこの施設にはありとあらゆる物がそろっていた。

「ここを出るのは簡単だが、問題は、バイオグラムを手に入れる方法と敵に追跡されずにシュロンにどうやってたどり着くかだ」

すると、ダンイが、

「ロダンを呼んで来ますか?」

と気が進まない感じて言った。

「あいつか・・・」

「ロダンって誰なんですか?」

とユジンはコクリュウに訊ねた。

「うちのもんだ。盗みの腕は天下逸品だが、あいつは、ちょっと変わり者でな・・・」

「ロダンは俺たちと違ってここの生活を気に入ってるんだよ。まったくおかしな野郎さ」

とダンイが付け加えた。

 宇宙海賊ブラックソサイエティーは、頭目のコクリュウ、闇技術者のダンイ、盗賊のロダン、他蒼々たる顔ぶれで構成されている。この度の戦争により、メンバーはそれぞれバラバラに、自分の都合のいい場所に、各自、身を隠した。この第14反抗分子収容キャンプに潜んだのは、コクリュウ、ダンイ、そして、ロダンだった。コクリュウとダンイは、宇宙海賊がゆえの日頃の放浪癖により、この収容キャンプに定住を余儀なくされる事に苦痛を感じはじめたが、ロダンは、逆に、放浪より定住という安定した生活ぶりに満足した。反抗分子収容キャンプという制限された生活とはいえ、暗闇の宇宙空間の道なき道を放浪し続ける海賊暮らしよりも、ここの方が数倍リラックスできると感じていた。

「まぁ、あいつもまだうちを辞めたわけじゃないからな。ダンイ、ちょっとあいつを呼んできてくれるか」

ダンイは、すぐにロダンを呼びに行った。









      



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