表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻燈奇譚  作者: 紫藤市
4/5

 葭屋での怪談会は、八月の()()(ぼん)の前日に催された。

 小郷座の座員たちは昼過ぎに葭屋の屋敷に入り、紙を貼り合わせた幕を座敷の奥に張ったり、幻燈機の状態を確認したりと準備に励んでいた。今日ばかりは幾澄も髭を剃り、髪も結い直し、着物も一張羅を羽織っている。央為と二人の座員は芝居小屋と同じ(はっ)()姿だ。

 怪談会は日が暮れてから始まることになっていた。夕方、客たちはまず葭屋の表座敷で食事をして、その後奥座敷へと移動する。

「お疲れ様です。皆様、どうぞ召し上がってくださいませ」

 女中たちによって握り飯が山盛りになった皿と番茶を入れた()(かん)が運ばれてきた。その最後尾に玉の姿があった。

「あんたたちも、錦影絵は見られるのか?」

 湯飲みを配る玉に、央為が世間話のような振りをして尋ねた。

「はい。旦那様は毎年、あたしら奉公人にも見て良いとおっしゃってくださいます。怪談が苦手な者は見ませんけど」

 玉が答えるより先に、古参の女中らしき中年の女が朗らかに答えた。

「玉は、錦影絵は初めて見るんだよね」

「はい」

 女中の問いに、玉は小声で返事をする。

「小郷座さんの錦影絵は、それはもう素晴らしいものだよ。これを見たら、他の錦影絵なんて見られたもんじゃないよ」

 女中は手放しで小郷座の錦影絵を誉めそやした。どうやらお世辞ではないらしく、女中の目は期待で輝いている。

「楽しみにしています」

 玉は素っ気なく告げると、誰よりも早く奥座敷から姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ