四
葭屋での怪談会は、八月の盂蘭盆の前日に催された。
小郷座の座員たちは昼過ぎに葭屋の屋敷に入り、紙を貼り合わせた幕を座敷の奥に張ったり、幻燈機の状態を確認したりと準備に励んでいた。今日ばかりは幾澄も髭を剃り、髪も結い直し、着物も一張羅を羽織っている。央為と二人の座員は芝居小屋と同じ法被姿だ。
怪談会は日が暮れてから始まることになっていた。夕方、客たちはまず葭屋の表座敷で食事をして、その後奥座敷へと移動する。
「お疲れ様です。皆様、どうぞ召し上がってくださいませ」
女中たちによって握り飯が山盛りになった皿と番茶を入れた薬缶が運ばれてきた。その最後尾に玉の姿があった。
「あんたたちも、錦影絵は見られるのか?」
湯飲みを配る玉に、央為が世間話のような振りをして尋ねた。
「はい。旦那様は毎年、あたしら奉公人にも見て良いとおっしゃってくださいます。怪談が苦手な者は見ませんけど」
玉が答えるより先に、古参の女中らしき中年の女が朗らかに答えた。
「玉は、錦影絵は初めて見るんだよね」
「はい」
女中の問いに、玉は小声で返事をする。
「小郷座さんの錦影絵は、それはもう素晴らしいものだよ。これを見たら、他の錦影絵なんて見られたもんじゃないよ」
女中は手放しで小郷座の錦影絵を誉めそやした。どうやらお世辞ではないらしく、女中の目は期待で輝いている。
「楽しみにしています」
玉は素っ気なく告げると、誰よりも早く奥座敷から姿を消した。