高が一夜、然れど一夜
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「口に合うといいんだがな。」
そう言って優は晩御飯を配膳していく。
内容はご飯に味噌汁、肉野菜炒めと質素な物だ。
優はさっさと自分の席の着きいただきますをして食べ始める。
ところが麗華はうろうろするばかりである。
「さっさと席に着け。冷めると不味いぞ?」
こう言われて麗華も自分の席に着く。
それでも配膳された食事に箸を付けようとしない。
優が不審に思ってるとおもむろに麗華の口が開く。
「・・・食べ方とか食べる順番とかあるのですか?」
「・・・ホントにいいトコの御嬢様なんだな・・・。食べ方は箸で摘まんで食べる。食べる順番は特にない。強いて上げるならご飯とおかずを交互に食べる位だ。」
そう言って優はドンドンご飯をかき込んでいく。
それを見て麗華もいただきますをして食事に箸をつける。
「・・・あ。美味しい・・・。」
「そらようござんした。」
これ以降食卓は無言になるが麗華には優が嬉しそうに見えた。
(美味しいと言われたから・・・?)
二人ともキレイに皿を空にすると待ってるのは洗い物だった。
「天川様はいつもご自分で料理をされるのですか?」
「いんや。今日はたまたま材料を買い込んでいただけだ。いつもはレトルト食品で済ませる。」
「れとると?」
「・・・レンジでチンして食べる奴だ。」
「? レンジでチン?」
「・・・カップラーメン分かるか?」
「ば、馬鹿にしないでください! お湯を入れて三分待って食べるインスタント食品です!」
「・・・とにかくそういった物を食べてるんだ。それとも出前でも取った方が良かったか?」
「そんな事ありません! とても美味しかったです!」
「それはなにより。」
「あの、どうして料理をあまりしないのにあんなに手際がいいのですか? むしろ料理が出来るなら自宅で作って食べる方がいいと思うのですが・・・。」
「一人分だけ作るのがめんどくせぇんだよ。すこぶる。料理が出来るのは賄い目当てで色んな飯屋でアルバイトしたからな。レパートリーだけなら和洋中色々揃ってる。さてと、洗い物はこれで終わりだ。客間に戻るぞ。足枷以外の施術がされていないか確かめる。」
麗華を客間で待たせると優は色々な道具を持って来た。
何をどう使うかも分からないその道具類を見て麗華に不安の種が芽吹く。
「俺が霊視した限りじゃあ特に不審な点はねぇがそれでも万が一という事がある。細々と検査させてくれ。」
優は安心させるためにそう言い置き検査を始める。
指先にちょっとした切り傷を作り血を紙に取り何かしらの水に浸ける。
他にも特殊な水を口に含ませ吐き出させる。
諸々の検査は一時間以上に及んだ。
時間は夜の十時を回っている。
「一応、自宅に連絡入れるか?」
「・・・そうですね。」
麗華はやっとここで自分が保護されている事を思い出した。
(私は何を浮かれてたの! 天川様は私を保護してくれてるのよ!)
叱責するように自分を諫める。
だが、優の次の言葉にすぐに浮かれる。
「今夜はここの泊る事も伝えろ。今夜一晩何もなければ明日には自宅に帰せる。」
麗華は自分でも分かるほど頬が緩んでいる事に気付く。
(学院で氷結の女王とか言われてる私の今の姿を見たら皆何と言うかしら?)
両親が何と言おうが今夜は天川家に宿泊する事を決意する麗華であった。
「・・・随分長い事話してたが・・・、大丈夫か?」
「大丈夫です。問題ありません。」
麗華は満面の笑みで述べるが大丈夫ではない。問題大有りである。
性に旺盛な年頃の男女が二人っきりで一つ屋根の下にいる。
一之瀬家に取って十分な醜聞である。
それでも状況が状況だけに止むを得ないと判断された。
ましてや一条綾女の件で面識のある世話になった狩人なら一応安心とされたのだ。
優は客間に魔除けの香を焚いて寝具を用意する。
「疲れただろ。今夜はもう休め。」
そう言って客間から優は出て行った。
(眠れない・・・。)
時間はもう深夜になっている。
なのに一向に眠気が来ない。
(私・・・、怖がってる?)
気付いたらまた見知らぬ場所にいる。
あの時の恐怖が蘇ってくる。
このまま布団の中に居ても眠れないのは分かっている。
布団から抜け出し客間から出ると居間に明かりがついている。
不審に思った麗華は居間に向かうとそこには日本刀を傍に置いて椅子に座って本を読む天川優の姿があった。
麗華の存在に優はすぐに気付いた。
「・・・眠れないのか?」
「・・・はい。」
「ホットミルク作ってやる。とりあえずそれを飲め。」
そう言って台所に入る。
麗華は優のその後姿に見惚れる。
「・・・いいなぁ。」
「? 何か言ったか?」
「! いえ! 何も!」
「・・・そうか。」
優はそれ以降麗華に何も言わずホットミルクを作る。
「ほら、出来たぞ。」
マグカップ二つをテーブルに置いた。
「いつもこの時間まで起きていらっしゃるのですか?」
「いや、今夜は特別だ。」
「?」
「一之瀬麗華と言うお客人が泊っているからな。」
「え?」
「こちとら曲がりなりにも世界で数えるほどしかいないSクラスの狩人だぞ? その俺が見張りをするんだ。安心して寝ろよ。」
麗華の胸が熱くなる。
(私の為に起きていてくれてるんだ。)
二人は何も話さない。
ただ、時が流れる。
麗華はホットミルクをもう飲み切っている。
でも、立ち去り難い。
「俺がキチンと見張るから安心して休め。寝ろ。」
(もう少しここに居てはいけませんか?)
喉元まで出かかった言葉を飲み込んで別な言葉を口にする。
「ホットミルク御馳走様でした。おやすみなさい。」
客間に戻り布団に入ると麗華はいつの間にか眠りに落ちていた。
「おい、起きろ。朝だぞ。」
頬をペシペシ叩かれて目を覚ます。
頭がやっと覚醒して飛び起きる。
「着替え、ここに置いておく。」
そう言って優は風呂敷に包んだ制服と下着をおいて行く。
(死にたい・・・。)
朝早くから寝顔を見られるという恥ずかしさと下着を置いて行かれるという二重の恥ずかしさで朝から悶絶する一之瀬麗華であった。
「朝風呂は準備できてねぇから勘弁してくれ。代わりに朝食を準備した。」
パンとジャム、簡単なサラダ、牛乳と割と軽めの物を準備した。
「・・・構いません。朝食の準備もありがとうございます。ただ、文句が一つあります。」
「なんだ?」
「女性の部屋には簡単に入らないで下さい! 部屋の外から声をかけてくれれば起きます!」
この言葉を聞いて優の目が半眼になる。
「その外から何度も声をかけても起きねぇから部屋に入ったんだよ! 気配があるのに返事がねぇから何事かと心配したんだぞ!」
事実優は部屋の外から三度も声をかけている。
なのに返事が無い。
何事かと心配して客間に入ると熟睡する麗華嬢がいるだけだった。
力が抜けて頬を叩いて起こしたのだ。
「人のことを常識無しの変態扱いしやがって・・・。」
始終ブツクサ言いながら朝食を食べる優に麗華は反論できなかった。
「そろそろ出るぞ。一之瀬家の迎えの者がギルドの出張所まで出張ってくれるそうだ。」
出張所には既に一之瀬家の面々がいた。
麗華の父母である龍造と喜代美。
姪にあたる一条綾女。
護衛の面々。
麗華の無事な姿を見て両親と綾女が麗華に抱き付く。
そんな中二人の人物が優によって来る。
面識はないが優には分かった。
顔の輪郭が麗華に似ている事から家族と分かった。
「初めまして。麗華の兄、一之瀬卓也と言います。妹を助けていただきありがとうございます。」
「妹を助けていただきありがとう。本当にありがとう。私は姉の侑希と言います。」
二人揃って恭しく礼をする。
麗華の両親も優の元に来て礼を述べる。
「また、君に助けられたな・・・。何と礼をすればよいか・・・。」
「天川様、娘を助けていただきありがとうございます。」
「事の顛末はギルドを通じて報告書で上げるから後で読んでくれ。とりあえず今回の首謀者である重村幸男は悪魔化したんで討伐した。麗華のお嬢に施された足枷の施術以外は特に何もなかったから大丈夫だ。それも解呪してるから安心してくれ。後、俺の方で一応護法を施しておいたから当分の間は何かあっても大丈夫だろう。」
「・・・何から何まで・・・。本当にかたじけない。」
深々と礼をする一之瀬龍造の元に麗華がやって来る。
その顔には不安が浮かんでいる。
(これでもうお別れなんて寂しい・・・。)
何か言いたくても言葉にならない。
優はいつものボサボサ頭に簾前髪で素顔を隠している。
昨夜見た銀の髪もアメジストの瞳も今は見れない。
(もっとお話をしたい。もっと親密になりたい。もっと・・・。)
たった一晩過ごしただけだ。
やましい事は何もしていない。
そうして麗華は自分の気持ちに嘘が付けなくなる。
(恋人になりたい・・・。)
だから思い切って声に出た。
「優様!」
名字ではなく名前で呼んだ。
今はこれが精一杯。
名前で呼ばれた優は麗華の方を見る。
(今、「天川様」じゃなくて「優様」って呼んだよな?)
麗華の心情の変化に気付かない訳では無い。
少なくとも好意は持たれてると思っている。
(こんな状況で渡すと勘違いするかなぁ・・・。)
優は一之瀬麗華について色々調べていた。
何せ探索対象なのだから。
ミスパーフェクト、氷の才媛、氷結の女王など色々なあだ名が付けられている。
顔立ちは整っている。
明確に美人の部類に入る。
体つきも非常にグラマーである。
同世代とは思えないほど胸は大きく迫り出しウェストは細い。
お尻も引き締まっているようだ。
後輩の面倒見もいい。
何より媚びを売らない為に男女とも評判がいい。
後は性格の相性か。
(俺、この人を女性として見てる?)
だが、自分の様なヤクザ商売をする者に懸想してくれるとは思えない。
頭の中に出来た幻想を振り払い現実を引き寄せる。
とにかく懐にある物を渡す事にする。
「ほら、これ。」
ぶっきら棒に箱を麗華に突き出す。
「これは? 開けても?」
「あぁ、構わない。」
箱の中には綺麗な青い鉱石で装飾されたペンダントが納まっていた。
「アクアマリンで作った護符だ。」
「私に・・・ですか?」
「あぁ、そうだ。」
その瞬間華やかな笑顔を麗華は浮かべる。
氷の才媛やら氷結の女王などのイメージからほど遠い笑顔。
「大事にします! 絶対大事にします。」
(ダメだ・・・。囚われた・・・。)
天川優は一之瀬麗華に魅了された。
誤字脱字がありましたら教えてください。