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悪夢の後で

黒騎士となっている優は刀を大上段に構える。

同時に真紅の炎が刀身の纏わりつく。

それを思いっ切り振り下ろすと爆炎の波が生じごちゃ混ぜの化け物に襲い掛かる。

『ギャァァァァァァァァァァァ!!』

耳を塞ぎたくなる様な気色の悪い声が上げる。

『ベースになっているのは悪魔化したバクテリアか・・・? なら、俺が眷属にした炎の悪魔の力が役立つってなモンだ! 焼却処分してやるぜ!』

この言葉を皮切りに漆黒の甲冑から炎が吹きあがる。

三対の純白の翼は真紅の炎となり火の粉を撒き散らす。

その炎の翼をはためかせごちゃ混ぜの化け物に突撃する。

化け物からは何本もの触手が伸ばされて優に襲い掛かるが余りにもの高温で放射熱が生じて優の体に触れる前に焼き尽くされてしまう。

突撃の勢いを殺すことなく優は刀を横薙ぎに振るう。

超至近距離からの炎を纏った斬撃でごちゃ混ぜとなった化け物の犬と思える頭部を斬り飛ばす。

その後に爆炎の波が化け物の体全体を覆う様に襲いかかる。

周囲には肉が焦げる嫌な臭いが立ち込めるがそれに構わず優は連撃を放つ。

二激、三激、四激、次々と炎の軌跡が生まれる。

その度に爆炎の波も発生してごちゃ混ぜの化け物を焼く。

五分もかからずに化け物は焼け焦げだらけとなり最早ピクリとも動かない。

これを好機と見た優は一歩下がり剣先が腰に触れるほど大きく振りかぶる。

日本刀の刀身は赤く灼熱の色に染まる。

黒騎士となった優の回りが陽炎のように揺らめく。

その優を中心に炎が円を描くように回り始める。

『破亜ァァァァァァァァァァァ!!』

気迫の籠もった声と共に刀を振り下ろすと綺麗な炎の軌跡が生まれ化け物は真っ二つに切断される。

それだけでは終わらない。

優の周囲を回っていた炎は斬撃の軌跡に吸い込まれるように追随しはじめる。

こうして斬撃の後を追う様に軌跡から火柱が上がる。

それも直径三メートルはあろうかと言う巨大なものだ。

『ギャァァァァァァァァァァァ・・・・。』

断末魔の叫びを上げながらごちゃ混ぜの化け物はこうして灰塵と化した。



『麗華の嬢ちゃん!?』

あれ程の脅威をあっさり振り払った優を麗華は呆然と見ていいた。

優はそれが何か儀式の影響でボウッとしていると勘違いしたのだ。

黒騎士のまま麗華の肩を揺さぶる。

『しっかりしろ! 何か呪術を施されたのか!?』

その麗華は魔神化を解除することなく自分の身を案じてくれることに喜びを見出していた。

(こんなに私の身を案じてくれてるんだ・・・。)

心に喜びが満ち溢れる。

自分は大丈夫だという事をこの優しい魔神に伝えるために口を開く。

「大丈夫です。重村は逃げれない様に呪術で足枷をはめたと言っておりましたが体に変調はありません。」

だがこの言葉に優の方が慌てる。

『呪術で足枷だと! 不味いぞ! どんな種類か・・・分かる訳が無いか・・・』

漆黒の仮面で表情が分からないがおそらく歯軋りでもしていそうな顔をしていると想像できる。

この優の態度に不安が生じる。

「よろしくない状況なのですか?」

『非常によろしくねぇ! このまま放っておくと麗華の嬢ちゃんはまた生贄に選ばれちまう! 足枷を外さにゃならん!』

ここでやっと魔神化を解除して表情を見せる。

その顔は痛恨事に歪んでいた。



優はすぐさま知り合いの警官、冴子に携帯電話で連絡を取る。

「冴子の姐さん! 麗華の嬢ちゃんは保護したが問題が発生した!」

『問題って・・・何があったの!』

「嬢ちゃんに呪術が施されている! このままじゃヤバい! 解呪の為に俺の家でとりあえず保護するから親御さんや関係各所に連絡を入れてくれ!」

『・・・危険な物なの?』

「逃亡防止用の足枷ってだけなら問題はねぇがそれ以外にも何を仕掛けてあるかわかりゃしない! 何より今回は生贄に使われそうになったんだ! 今後の事を考えて護法を施しておきてぇ!」

『分かったわ。私の方からご両親と関係各所に報告はしておく。麗華お嬢さんはませるわよ? 黒騎士様?』

「分かってる!」

通話を切ると優は麗華を振り返る。

「お嬢には悪いがこれから俺の家に来てもらう。家族との面会はしばらく先だ。」



(ここに来るのも二度目なんですね・・・。)

若干のときめきを胸に優の家に入ると落ち着いた香の匂いがする。

それと同時に全身にびりびりと軽い電流の様な物が流れる。

そのことに驚いて優に説明するといると答えが簡潔に返って来た。

「瘴気の所為だ。」

「しょうき?」

「詳しく説明すると長くなるから簡単に言うと悪魔どもが纏う悪い気配だ。麗華の嬢ちゃんはその空気に長く触れていたため衣服のみならず体にも染み込んでいる。香を焚いているせいだ瘴気が祓われ始めたんだ。その瘴気を祓う薬湯の風呂を準備するからそれに入れ。だが、その前にこいつを飲んでおけ。」

そう言って緑茶らしき物を麗華に寄越す。

「これは?」

「瘴気を体内から祓う為の苦ーいお薬だ。」

嫌な説明をされたが言われた通り口に含む。

「・・・苦いと言うより渋いです・・・。」

「一口二口じゃ効果はねぇ。きっちり全部飲め。」

麗華はやけになり一気の飲み干した。

口の中には渋みが広がり味覚が変になりそうだった。

その間に優は魔除けの香をいつもより多めに焚いていた。

それが終わるとお茶を淹れはじめる。

「口直しにこいつを飲んどけ。」

そう言って出されたのはハーブティーだった。

「さっき飲んだ薬とこのハーブティーは相性がいい。互いに相乗効果で瘴気を祓う力を高めてくれる。」

「美味しいです・・・。」

「そらようござんした。風呂の準備をして来るから大人しくしてろ。」

そう言って優は客間から出て行った。



(私男性と二人っきりなのよね・・・。)

あんな事があったというのに麗華は浮かれていた。

(まさか私恋してる?)

一之瀬家など石榑にしか扱わない。

金に執着しない。

自分の顔や胸をじろじろ見ない。

麗華にとってこのような男性は初めてなのだ。

(あのぼさぼさ頭をどうにかしたい。顔を隠すような前髪をキチンとさせたい。)

麗華の中に天川優改造計画が出来始めていた。



「風呂の準備が出来たぞ。」

悶々と考えている中で当の優に声をかけられ体をビクリとさせる。

その驚き様に優の方が心配になる。

「・・・ひょっとして体調不良を我慢とかしてるんじゃねぇだろうな?」

そう言って麗華の顔を覗き込む。

(近い! 近い! 顔が凄く近い!)

よくよく見るとぼさぼさの髪で気が付かなかったが顔は非常に整ってるのが分かった。途端に頬が上気する。

「だ、だ、大丈夫です! お風呂の場所を教えてください!」

優は不審に思いながらも浴室に案内する。

「ここだ。代わりの服は悪いが俺のスポーツウェアで我慢してくれ。真っ裸の上に羽織らせる事になるが我慢してくれ。あと衣類も薬湯を使って瘴気祓いをするからこの籠に入れて廊下に出してくれ。」

「真っ裸って・・・。それって・・・下着も・・・ですか?」

「全部だ。全部。」

「下着は自分でどうにかします!」

「阿呆。素人じゃどうにも出来ねえから俺がやるんだ。言っとくが状況は麗華の嬢ちゃんが考えてるよりヤバいんだ。それとも無理やり衣服をはぎ取られて薬湯の風呂に投げ込まれて下着から制服まで焼却処分されてえか?」

女性としての尊厳に思い悩んでいると優が催促する。

「さっさと風呂に入れ! 薬草を飲んで香を浴びても体の芯から瘴気を祓う事なんざ出来ねぇんだ! 体が瘴気に蝕まれる前に薬湯に漬かって来い! こちとら今更女性の下着の一枚や二枚でギャースカ騒ぐほどガキじゃねぇんだ! さっさとしろ!」

「嫁入り前なのに・・・。」

「生贄にされて無残な躯になるよりましだろうに・・・。」

麗華は覚悟を決めて風呂に入る事にした。



(いくらなんでも下着を男性の手で洗濯されるなんて・・・。)

正直泣きたい気持ちだったが香りのよい薬湯の風呂に入るとそんな思いは霧散する。

言われた通り髪からつま先まで薬湯できっちり洗う。

特に髪はハーブを使ったシャンプーが気に入り香りを楽しみながら長風呂となった。



「一時間以上も入ってるとは思わなかったよ・・・。」

麗華が風呂から上がると洗濯を終えた優がソファーでくつろいでいた。

「こっち来い。トリートメントして髪乾かしてやる。」

そうして麗華をソファーに呼ぶ。

クリームタイプのトリートメントを髪に満遍なく塗る。

毛先まで丁寧に薄く均一に。

「椿油を使った物だ。御嬢様の御気に召すかどうか・・・。」

髪の根元に付かない様にしてくれる事を嬉しく思い優のなすがままである。

その後麗華の髪をドライヤーで優しく髪を梳きながら乾かしていく。

「肌も綺麗だが、髪も綺麗なんだな。」

肌のキメが細かい事と枝毛を作らない髪は密かな自慢であった。

それを褒められて麗華は有頂天になる。

だが、この後優の爆弾発言に大いに慌てる。

髪を乾かすとソファーから離れようとする。

もっと話がしたい麗華は呼び止める。

「何処へ行かれるのですか?」

「俺も風呂入るんだよ。」

(お風呂に入る? ひょっとして私の入ったあのお風呂に?)

「お風呂はもう一つあるのですか?」

ある訳がない。それでもあって欲しいと言う願いを込めて問う。

「こんなちっぽけな家に風呂が二つも三つもある訳ねぇだろ。オメェさんが入った風呂だよ。」

この言葉を聞いて麗華は慌てる。

「ダメです! 絶対ダメ! そんな恥ずかしすぎます!」

優の額に青筋が浮かぶ。

「あのなぁ! 普通の風呂なら湯の入れ替えをするが薬湯なんて貴重な代物使った風呂の湯を入れ替え何て簡単に出来るか!」

「でも! でも! でも!」

言い募る麗華を無視して優は脱衣所に入った。



(うぅぅ! 死にたい・・・。)

自分の残り湯に男性が入るなど恥辱の極みだろう。

三十分もしないうちにその優が上がってくる。

恨みがましい視線を優に向けるがその姿を見て麗華は目を見開く。

「髪・・・。どうされたんですか? それに瞳も・・・。」

優の姿はすっかり変わっている。

ボサボサで黒かった髪は綺麗な銀髪になっていた。

それを後ろに流す様に整っている。

何より瞳が綺麗だった。

アメジストを思わせる薄い紫色の瞳は妖しい色気がある。

絶世の美男子。

正にこの言葉が合うだろう。

「この髪と瞳はお袋譲りだ。知ってるやつは少ない。俺の容姿はお袋に似た。おかげでこんな女顔だけどな。」

そう言ってヒョイと肩をすくめる。

「普段は認識阻害の魔術で姿を偽ってるんだが風呂入ったりシャワー浴びたりすると魔術が解ける。学校卒業までは目立ちたくねぇからあんな容姿を好んで使ってる。」

「では、ボサボサ頭や簾の様な前髪は・・・。」

「ワザとだ。一度この姿で狩りに出たら女の狩人どもががキャーキャー五月蝿いからあの格好で過ごすようにしている。」

そう言って台所に入る。

「今日は泊ってけいけ。足枷呪術の解呪や他に何かされていないか調べる。後は俺自ら護法を施す。何日もここに通われたくねぇ。今夜中に全て終わらせる。晩飯を作るから待ってろ。」



麗華の一日はまだ終わらない。



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