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依頼人

拙作をお読みいただきありがとうございます。

「めんどくせぇ。」

優は表情を変えることなく麗華の頼みをただこの一言で切り捨てた。

「世間には俺より働き者がいっぱいいるからそいつらに頼め。」

そう言って優は踵を返して去ろうとする。

(ここまで来て!)

麗華は必死になってその後を追う。

歩幅が違う為駆け足のように後を追う。

いつまでもついてくる麗華が鬱陶しくなり優が走ろうとするとコートの裾を掴まれる。

「お願いです! 話だけでも構いません! 助言だけでも構いません! 話を聞いてください! 助けたいんです! 七つになったばかり姪を助けたいんです!」

優は大きく息を吸い、はぁ、と重い溜息を一つついて立ち止まる。

振り返った眼は半眼で嫌そうにしている。

「話を聞くだけだぞ・・・。」



「ここが・・・、事務所ですか?」

廃墟と見間違うばかりの佇まいの一軒家である。

優は躊躇うことなくその一軒家に入っていく。

麗華も遅れまいとその後に続く。

中は不思議な匂いで満たされていた。

(落ち着いた香り・・・。)

大きく深呼吸する麗華を見て優が香りの正体を教える。

「御除けの香を焚いているんだ。」

「魔除けの香ですか?」

「あぁ。」

ソファーを進めた後、優は給湯室に入っていく。

しばし待つと手にはお茶とお茶請けがある。

「良家の御嬢様の口に合うか分からんがどうぞ。」

「何故私が良家の出だと?」

優の頬が引き攣る。

「お前、俺の洞察力馬鹿にしてるだろ? 言葉遣いや立ち居振る舞い。何よりその制服は御嬢様・御曹司がこぞって入る清明学院のモノだ。嫌でも分かる・・・。」

そうして麗華の対面に椅子を持ってきて腰を下ろす。

「で、姪御さんに何があったんだよ・・・。」



麗華の話はこうだ。

今から十日ほど前に事は起こった。

麗華の姪である綾女は生来病弱であった。

その綾女の七歳の誕生会でお守りがプレゼントされたところ急に苦しみだしたのだ。

急いで祓魔師を呼んで調べて貰ったところ悪魔か悪霊に憑りつかれて呪われてるという事が分かった。

だが事がここから大きくなる。

『私の力ではとても祓えません・・・。』

呼び寄せた祓魔師の力では悪魔・悪霊を祓う事も解呪する事も出来ないという。

そこでギルドを通して腕利きを紹介して貰ったが誰も対応できなかった。

全員返り討ちに遭ったのだ。

Aクラスの悪霊祓いですら敗れたのだ。

綾女の両親は泣き崩れ、一族が悲しみに暮れた時狩りに失敗したAクラスの狩人がある場所を教えてくれた。

『もしかしたら、世界でも数少ないSクラスの狩人を雇えるかもしれない。』

こうして藁にもすがる思いで麗華は優を訪ねて来たのだ。



「ふーん。」

優は気のない返事をする。

本当に話を聞くだけのつもりだったからだ。

だが、麗華は必死だった。

自分の事を姉と慕ってくれる可愛い姪を死なせたくない。

膝の上で両手をギュッと握りしめ頭を深々と下げる。

「お願いします。綾女を助けるために力を貸してください。」

だが、優は無常な事を言う。

「正直、気分が乗らねぇ・・・。」

「!!」

麗華は出張所の主が言っていたことを思い出した。

(気分が乗らねぇとどんなに大金を積まれても仕事をしない)

麗華は思わず床に這いつくばり頭を下げる。

所謂、土下座である。

「お願いします! どうか綾女を助けてください! 助けていただけるなら何でもします! 打擲したいならどのような打擲でも受け入れます! 性の捌け口をお求めなら喜んでこの体を捧げます! だから! だから、お願い・・・。綾女を助けて・・・。」

麗華の目から床に涙がしたたる。

「俺が成功するっていう保証なんざどこにもねぇのに何でそこまで俺にこだわる?」

麗華は頭を上げて優を見る。

両目から涙が溢れて頬を濡らしている。

それでも目には強い意志が宿っている。

その麗華の口が開く。

「捨てられた子供たちです。」

優の片方の眉が上がる。

「天川様は周辺の悪魔化した動物を処理するのは浮浪児たちの身の安全を確保するためではありませんか? そうして悪魔化した動物の死骸をそのままにするのは浮浪児たちがそれを換金して生活の足しにさせる為ではありませんか? そんな方なら綾女を助けてくれると思ったからです。」

「買い被りだな・・・。」

優は麗華の顔をしばし見る。

「・・・そういや金の事をああだこうだと言わねぇ奴って久しぶりだな・・・。」

「!! お金は何とかします! Sクラスの相場は分かりませんが必ず・・・。」

そこまで麗華が言い募ると優が手を上げてその先を制した。

「とりあえずその綾女とか言う女の子を拝みに行くか・・・。」

何処までもやる気のない態度を優は貫いた。



「デッケェ家だこと・・・。」

「綾女の家は一之瀬家の親族になりますから・・・。」

「左様で・・・。」

こうして世界でも数少ないSクラスの狩人、天川優は一之瀬麗華の案内で一条綾女に会う事になった。



通された客間には一条綾女の両親と思われる夫妻がいる。

だが、それ以外の人間も多数いた。

特に優と同業者と思える者や明らかにモグリな奴まで。

この一件を機に一条家のお抱えになろうと画策しているのだ。

その為に誰が一番最初に祓うか言い争ってるのだ。

(ホンッッッットくだらねぇ・・・。)

優は大人たちを蔑みの目で見る。

優は勝手に席を立つ。

それを見て麗華が慌てて押し留めようとするが優の一言で腰を下ろす。

「綾女の嬢ちゃん見て来るだけだ。」

こうして喧喧囂囂の大人たちを背に優は部屋を抜け出した。



(ここだな・・・。気配だけでヤバい・・・。)

優は綾女の部屋をノックして中に入った。



「はじめまして。いちじょうあやめです。」

「初めまして。天川優だ。」

件の綾女嬢はベットの住人になっていた。

青白い顔色と病的に痩せ細った体。

(このままだと本当に死んじまうな・・・。)

何から話すかを悩んでいると一条綾女の方から話しかけて来た。

「お兄ちゃんはかりうどですか?」

「? あぁ、そうだ。」

「おねがいがあります。」



客間に戻るとまだ言い争っている。

そんな大人を他所に優は麗華に話しかける。

「気分が乗った。綾女の嬢ちゃん助ける。」



この優の言葉には二つの反応があった。

一つは綾女の両親。

「助かるのですか?」

それに優は簡潔に答える。

「必ず助ける。」

もう一つの反応は同業者たち。

「お前みたいな小僧に何が出来る!」

これを優はバッサリと切り捨てる。

「俺の依頼人は綾女の嬢ちゃん本人だ。テメェらに説明してやる義理はねぇ。」

そうして綾女の両親と麗華に向かい宣言する。

「綾女の嬢ちゃん助けるために色々準備して貰ったり立ち会って貰ったりするから覚悟しろ。」


学園でのドタバタはまだまだ先です。

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