異世界に落ちたけど、とてもとても幸せな日々を過ごしている。
『異世界に落ちたけど、とても幸せな生活だった。 と、そこで終わったなら良かったのに』の続きです。結局書きました(泣)
エドヴィンからツンデレが失われ、リサがテンパってます。前作とはノリが違いますがよろしければどうぞ。糖分過多です(個人的に)
『す、………………好き、なんだ』
吐かれた言葉と赤く染まった顔。
「うああ……」
思い出して、思わず呻く。
くそう。エドヴィン様め! 腰が抜けて立てないじゃないか。美形の頬を染める様子なんて破壊力ありすぎるんだよ!
火照る頬を押さえる。嬉しいなんて……。うん。き、気の迷いだ。美形に勘違いでも好きと言われたら嬉しいよね。別に不自然な事ではない。恋愛感情では決してないし、そんなもの持ってはいけない。
「よ、よし」
暴走しそうになる感情を抑えて、舞踏会に戻ることを決意した。
今日の舞踏会は、王家主催だ。エドヴィン様は知らないが私はまだ挨拶もしていない。このままブッチは出来ないだろう。
けど……エスコート役、誰に頼もう。
ここの世界では女性が一人で入り口から入るのはマナー違反なのだ。
ああもう面倒だな! 私の日本だったら、一人で入っても問題ないのに!
バルコニーからだったらいいんだけどね、エドヴィン様はご丁寧に休憩室まで連れてきて下さったから!! 全くどうしてくれる。私には悲しいことにこの世界で異性の知り合いが居ないというのに。
私には今、四つの選択肢がある。
一つ目、マナー無視してひとりで入る。
二つ目、エドヴィン様に頼む。
三つ目、適当な人を捕まえる。
四つ目、なんとかしてバルコニーに侵入。しれっとした顔で戻る。
……うん。最初の二つは却下だ。一つ目は、子爵家にも迷惑がかかる。二つ目はなんかエドヴィン様の顔を見て平常心でいられそうにないからだ。
となると、有効なのは三つ目だろう。私は廊下に出てきょろきょろと辺りを伺う。……人、居ないなぁ。仕方なく、庭まで出て探すが、ちくしょう、見事にいちゃついているカップルしか居なかった。
と、なると……四つ目? エドヴィン様を探すという選択肢と同じくらい嫌なんだが。仕方ない。
私がこんな無茶な選択肢をいれたのには理由がある。この会場の特徴として、バルコニー同士がとても近いのだ。そう、飛び移ろうとすれば出来るくらいには。
幸い、隣は休憩室なので、多分、行ける……!
バルコニーに人が居なくなったのを確認してぽいっと靴を投げた。ヒールで飛び移るとか自殺行為だからね。さぁ、女は度胸! と手すりに足をかけたとき、物凄い力で後ろに引っ張られた。
「なにをしている!」
「うおっ、え、ええエドヴィン様!」
広い胸板が頭に当たる。腰と肩に手が回っていて……つまり後ろから抱き締められている形。
「……危ないだろ……!」
いや、ちょっ、ちょっと! ひぃぃぃい! 耳元で切なげに囁くとかやめて下さい切実に!! 私はイケメンで完璧でたいそうおモテになるエドヴィン様とは人種が違うんです慣れてないんです!
「……で、何をしようとしていた」
暫く私を抱きしめていたエドヴィン様だが、落ち着いた様で解放して下さるなり問い詰めてきた。……ふぅ。良かった。いつもの忌々しげな顔だ。照れ顔とか見せられたらこっちの心臓が持たない。
「ええっと、ほら。バルコニーから舞踏会に戻ろうかなぁって思いました次第で御座いますです?」
「馬鹿かお前は! しかも敬語もおかしい。何故疑問系なんだ」
くそう。近いんだよエドヴィン様! 壁に背をつけ、顔の横にはエドヴィン様の手がある。所謂「壁ドン」の姿勢である。こんな態勢をイケメンにとられて照れない女子がどこにいるか! 至近距離にテンパっているんだ、察してほしい。
「というか、な、何故、その……俺に頼まない」
心底疑問げにいわれたが、ふざけんな。告白まがいのこと事言われた直後にんなこと頼めるほど私は図太くない。っていうか何故エドヴィン様はそんなに普通なんだ。あれか。慣れてるのか。女性相手に笑顔を振りまいたりとタラシちっくな行動はされていたが中身は純朴だと信じていたのにっ!
「……そ、その、だな。さっき―――」
「あっ、エドヴィン様綺麗な満月ですよ!」
なにか聞きたげなエドヴィン様に焦る。
なんとか話題を逸らさなくては。私はあの告白もどきをエドヴィン様の黒歴史にしたくない。勘違いで告白とかもう黒歴史ものだからね! あくまでしぜーんと無かったことにするのだ。呼吸を落ち着けて、エドヴィン様に曖昧な笑顔を向ける。よし、当たり障りのない話題をふって誤魔化そう。日本で培ってきた社会人スキルをフルに活用して話題を逸らすんだ。
「えっと。そういえば、エドヴィン様は何故ここに?」
「お前が会場に戻れなくて困っていると……じゃなくて、王に挨拶していないのに、帰られたらこっちが困ると思ってな!」
おっしゃ、話題逸らせた。チョロイ。
「あー、なるほど」
適当に相槌をうつ。実にエドヴィン様らしい理由だ。
そう納得していたのにエドヴィン様はじっと私を見つめるとやけに神妙な様子で「いや、違うな」と言った。
「お前が、他の男に頼るのが嫌だったんだ」
「……っ」
……っあぁぁぁぁあ!!
叫びだしたい気分だ。やめてくださいほんと! 甘いわ! 彼氏いない歴=年齢の私には甘すぎるわ!
「そ、そうなんですか」
「ああ」
カムバック紳士なエドヴィン様! このままじゃ心臓が耐えられそうにない。
「で、では、会場に行きましょうか!」
「待て」
もうやめて! とっくにわたしのライフはゼロよ!
逃げ出そ……こほん。戦略的撤退をしようとした私の腕をエドヴィン様が掴む。暗闇でやや分かりにくいがどうやら頬を染めている。なんかもう色気がやばいですね、としか言えない。
「……返事はもらえないのか」
なんのことかなぁ? リサわかんなぁい☆ ……くそう。イタい。
落ち着け。素数を数えて落ち着くんだ。
ふっと息を吐いた私は、エドヴィン様に向き直った。
「いいですか、エドヴィン様。それは気の迷いなんですよ」
「お前が来たときからずっと想っているのにか?」
私が来たのって数年前じゃん……長っ! どんだけ勘違いしてんだ。内心の驚きはあくまで出さずに冷静に諭す。
「それでもです」
「……なぜ信じてくれない?」
悲痛そうな瞳で見られるが私は絆されない。
「だって、エドヴィン様私の事嫌いでしょう!」
ビシッと指を突きつけて断言してあげた。
「…………は?」
エドヴィン様は、たっぷり、それはたぁっぷり沈黙をあけて、その言葉を発した。柳眉が潜められる。
「ほら、その表情! 私に合うときいっつもその忌々しげな表情をなさっているじゃないですか」
私は得意になって指摘する。ふふん。
「……たんだ」
ん?
「眩しかったんだ。お前が」
真っ赤なったエドヴィン様にぐいっと抱き寄せられる。
「え、ちょ」
なにすんだ! さっきとは違ってこれは明らかにセクハラに値すると思われるのですけれども!
「他には? どうして俺がお前を嫌いだと思う? 言え」
「え、えっと、ほら。前、当主様が養子にならないかっていったとき凄く睨んでたじゃないですか」
「養子になられたら結婚できないだろう」
「け、けっこ……!? そ、そそれに、いつも怨念とか詰まってそうな花の処理に私をつかってるじゃないですか!」
「怨念?」
心なしかエドヴィン様の腕の力が強くなった気がする。なんで!? もう泣きそう!
「いや。あの、ほら女性たちから送られてくる花を私に挿して処理……」
「あれは俺が贈ったものだ! 贈られてきた花はすべて処理している! ……だからいつも笑顔がひきつっていたのか」
「ご、ごめんなさい」
そこは私が悪いよね。うん。申し訳ない。
「というか、俺はお前に優しくしたつもりだ! なぜ、そんな勘違いを」
「そ、それはそうなのですが、エドヴィン様は女性なら誰でも優しいので、嫌っている私にも優しくしてくださるのかと」
「……それはお前が女性に優しくない人は嫌いだと言っていたからだろう」
嘘。覚えてない。……けど確かに私は女性に優しくない人は嫌いだ。
ということはあのタラシちっくな行為は私の所為だったのか!
「お前が来てから俺の行動規範の全てに、お前に好かれたいと思う気持ちがある! 悪いか!」
「え、健気……」
「認めたか?」
かぁぁあっと顔に火が灯ったように熱くなった。じゃあ、つまり私は、正真正銘この人に好かれているのか!
「認めたのなら、答えを」
「エド、ヴィン様……」
私は。
私は、異世界に落ちて、不安だった。まさしく右も左も分からなかったのだ。息の吸い方さえ分からなくなりそうなほど、ここはなにもかもが違った。
子爵家の当主様たちは優しかった。けれど、私は平和な日本で生きてきた人間だ。騙された事なんてほとんどない。なのに、どう判断しろと言う? 優しい笑顔が偽物じゃないと、どう言い切れる? 異世界に落ちて不安で仕方なくて、縋りたいが故に信じてしまっていないとどう言い切れる?
弱みをみせてはいけない、つけ込まれるかもしれないと、混乱する頭で必死に考えて精一杯の笑顔を保っていた。
不安は猛毒だ。遅効性でじっとりと染み渡り、心を蝕んでいく。
私はそこまで強くない。限界はすぐに来て、抜け出した。
庭の隅でうずくまって恐怖に耐えているとエドヴィン様が来た。彼は何も言わずにただ、ぽんぽんと頭を撫でていてくれた。
―――それが、どれくらいの救いだったか。
きっと彼は知らない。
何も分からなかった、全てが怖かった。けれど、その温もりは信じられた。向こうでもよく両親がしてくれたのだ。手つきから不器用な優しさが伝わってきて、そこで私はやっと泣くことが出来た。落ちてきた日ぶりの涙だった。
いつしか、エドヴィン様を目で追うようになって……ぼんやりと彼に嫌われていることを悟った。
「……リサ」
酷く甘いその声の持ち主は私が好きだという。
私は。きっと、ずっと前から―――
「私、は。……好き、です。ずっとずっとエドヴィン様が、私の支えでした」
―――エドヴィン様が好きだった。
そう告げるとエドヴィン様がとろけそうなほどの笑顔で微笑む。そんな顔を間近で見られるなんて、幸福感が満ち、頭が痛くなりそうだ。
私は、異世界に落ちたけど、とてもとても幸せな日々を過ごしている。
改めてそう確認したのは満月の綺麗な夜の事だった。
活動報告に後日談もありますのでよろしければ…。
※遊戯王はよく知りません←
※ジョジョは全作読破しています(`・ω・´)