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Dune  作者:
第一部
6/11

6.


「で、その荷物は」



アガサが上がって来るなり、開口一番がこれだ。

外から話したときは笑っていたのに、今は素っ気ないし若干責められているように感じる。気のせいだろうか。


「消毒薬とか。それと、食料もなさそうだったから缶詰とか持ってきたけど」


いちいち気にしても仕方ない。

リュックを開けて中身をどんどんテーブルに並べる。机上は既に薬や酒瓶などでごちゃごちゃとしていていっぱいなのだが、邪魔なのでそれをごっそりと端に寄せた。


「あー、お前、」

ヴィンセントがはあ、と呆れた顔をして溜息をついた。

それから頭を抱えてブツブツと独り言を言っていたが、アガサに向き直ると「座れ」とスプリングが剥き出しのソファを指差した。ヴィンセントの隣。

指示されるままにアガサは腰掛けた。ふにゃふにゃで座り心地は良いとはいえない。



「あのな」


青い目がじっとアガサを射抜く。黒髪が目元に掛かって、其の青さが際立っている。


無表情だ。ちょっとだけ怖い。

いやだいぶシリアスな感じがする。


何かしたっけ、とアガサは自分の行動を振り返るが思い当たる節はない。何の話だろうかと内心首をかしげる。

不安が胸を過る。


「確かに、来て良いとは言った」

「うん」

「でも、ものにはルールがある。俺の生活を乱されると困る」

「うん」

「もしそれが守れないっていうなら、」



駄目。

それ以上は聞きたくない。




「———ごめん、なさい」



アガサはぽつりとつぶやいた。

俯いたまま顔を上げられない。肩から流れ落ちるブルネットの髪が、まるで盾のように彼女の表情を覆っていた。


アガサは混乱していた。

どうしよう、しか頭になかった。

最悪の事態が思い浮かぶ。


ここで彼に見限られたら自分は———




上から「なら、良い」と声が降ってきて、頭にぽんと手が乗ったのが分かった。

ヴィンセントのものだ。大きくて、温かい。

アガサがはっと顔を上げると、隣の彼はこちらを相変わらずの涼しげな双眸で見ていた、が、口元だけがにやりと笑っていた。


「え、ひど、」

こっちは真剣にどうしようかと思っていたのに。

そんなことも露知らずか、ヴィンセントは飄々とした表情を崩さない。


「別に酷くない。色々邪魔されたくないのは事実」


彼はそう言うと、テーブル上の山から薬を取って数錠口に放り込んだ。

毎日こんな風に適当に薬を飲んでいるのだろうか。そして空瓶から察するにお酒も多い。身体に良くないのは明白だ。ましてや負傷している病人なのに、とアガサは思う。

自分のすべきことをしたって、結局彼はこの生活を変えやしないだろうということは明白な気がした。


———あれ。

わたしは何のためにここへ来てるんだろう。



それは彼女にとって当たり前の疑問だった。

最初は、偶然怪我をしていたヴィンセントを助けたい一心だった。それから彼が『処置』された脱走兵だと知って興味を持った。


けれど。

そのあとは、もうずるずると行き当たりばったりで彼の治療の世話もすることになっているし、でも一向に教会のことは教えて貰えていない。

何時の間にか、自分が何をしにここへ来ているのかが曖昧になっているとアガサは感じる。

ヴィンセントは此処へ来ても良いとは言ったが、勝手はするなと先程釘を刺された。


何故来ても良いだなんて言ったんだろう。

教会に密告されたら終わりだ。それなのに彼はここまで連れてきた。


分からない。


あの彼の群青色の目は、温度を感じないほど鮮やかで美しいが、同時に少し怖かった。




「ねえ」


ヴィンセントがこちらを向く。


教会のことを教えて。

ただ単純に、そう言えばいいのだ。




「———治療するから腕を見せて」

「ああ」



言えなかった。


アガサは言葉をぐっと押し込んだまま、医療品を手にとった。



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