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Dune  作者:
第一部
5/11

5.


翌日。

神学校に「風邪を引いた」と連絡をしてヴィンセントの廃ビルに行くことにした。


昨日の欠席理由も似たようなものであった為、優等生であるアガサの申告は何の疑問も抱かれなかった。むしろ電話口で体調を心配されるほど自分は信用されているようだったので、拍子抜けした。人を欺くことは案外簡単だと思ってしまう。



ヴィンセントに言った通り包帯や消毒薬をはじめとする簡単な医療品を優先的に選ぶ。それと、あの様子では食料を得るために外に出る必要もあるだろうが教会に追われる身としてそれは得策と言えないので、大きなお世話だとは思いつつも缶詰や飲料を大きなリュックに詰め込んでみた。

既にこれだけで結構な量になっている。本当は他にも持っていきたいものがあるがこれ以上大荷物で外を歩くと目立ってしまうのでやめておく。

あの部屋には生活必需品というものが全く無かった。本当は毛布なんかがあると、特に冷える夜は便利だと思う。まあ、いつまでヴィンセントがあそこに居るかアガサには分からないのだが。

服装も制服では目立つし、考えすぎかもしれないが、万が一あそこに教会軍が踏み込んできた場合に備えてアガサにしては珍しくカジュアルなパンツルックを選んだ。勿論、色はお気に入りの黒で固めてある。



自分一人のアパートを出て、ビルへ向かう。

本当は午前中から押しかけようかとも思ったが、ヴィンセントが怒ると最悪の場合は相手にしてもらえなくなるだろうしそうなるとこちらが困るので、時刻は彼に指定された通り昼下がりである。




昨朝通った石畳の道を歩いていく。


風は凍えるほど冷たいものの、いつもは靄掛かっている分厚い空気の層も今日はいくらかは澄んでいるようで、地上にはあたたかな日差しが届いていた。こんな日は良いほうだ。


ヴィンセントと出会った道に差し掛かった。

ここも、昨日までは何ともない場所だったのに———

たった一日で目まぐるしく状況が変わったように、アガサは感じている。


自分がヴィンセントを助けたと教会に知れたら、犯罪者として重く処罰されるだろう。

こんなこと今までの自分では考えられないことだった。確かに教会への不信感は人一倍強かったが、以前までの自分は、何というか、もっと消極的だったように思う。


何が自分をここまで変えたのだろうか———






「ヴィンセント」


考え事をしていたのでぼうっとしていたが無意識のうちにビルの前へ到着していたらしい、三階の割れた窓ガラスの向こうに薄暗くはあったが碧眼の青年が見えた。どうやら彼は外を眺めていたようで、外に立つアガサと視線がぶつかった。


「来たのか。大荷物で」


彼は窓際まで寄って来て、やれやれといった様子でこちらを見ているが、来ていいと言ったのはそっちだろう。せっかく沢山物資を持ってきたというのに。礼くらい言われてもいいはずだ———

むすっとした表情で仁王立ちするアガサを見て、ヴィンセントは思わず噴き出した。


「え、何、」

「冗談。まあ、良いから上がってきな」


アガサはいまいち納得出来ないまま、しかしいつまでも外に突っ立っている訳にもいかないので裏口へ回る。



明るいこちらから見えた薄暗いあちらのヴィンセントはひどく印象的で、ふっと笑みを漏らした彼は、昨日のくたびれた其れとは対照的であった。

その一方で、何処かふわふわと定まらないような感じを受けた。気をつけていないと何処かへ消えてしまいそうな、脆い雰囲気を纏っているような———


よく、分からない。


アガサは漠然とした不安を覚えた。

これがわたしと彼のはっきりとした違いなのかもしれない。


彼はいずれここから出て行く。


その時、自分はどうするのだろう。

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