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Dune  作者:
第一部
2/11

2.


この世界———特に首都に住む上流階級———の子どもは、教会の神学校へ行かされる。


それはアガサも例外ではない。


今日も、神学校の野暮ったい丈のスカートとジャケットを着て登校するところだ。生徒のあいだでは制服ではなく喪服のようだとこっそり囁かれているが、彼女は黒が嫌いではない。

なんせ十二年間着てきた黒。だが今年でこの制服ともお別れだ。教会関係の場所からやっと離れられるので清々する反面、やはり愛着というものは芽生えるもので少しだけ寂しいとアガサは感じている。きっと卒業しても彼女は黒を着続けるだろう。



しかし、アガサは教会の教えを信じていない。



そのきっかけは恐らく幼少期だろうと思う。

大好きだった母が病床に倒れたとき彼女は毎日教会で祈った。お母さんが助かりますように、と。

しかし看病の甲斐なく母は亡くなった。父は今まで以上に仕事に没頭し、アガサの面倒を見なくなった。いつも暗い家にひとりぼっちで、お手伝いさんが作り置きした夕食を食べていたのを覚えている。


アガサが六年生のとき父は再婚した。

継母となった女性はブロンドの美人で、アガサと同じブルネットだった母とは性格も正反対のタイプだった。継母なりにアガサに懐いて貰おうと必死で努力したのだと思うが、アガサは馴染むことができなかった。

そうこうしているうちに父と継母の間に男の子が産まれ、家を継ぐのはこの弟だろうと直感してからますます彼女の心の溝は深まった。


十年生のときに家を出る決心をし、実家の援助は受けずに自らの財産をやりくりする生活が始まる。この選択は間違いではなかったとアガサは今でも思う。



アガサは、神さまの施しを受けたことなど無かった。



神さまは何も与えてくれない。

それどころか幼い自分から母を奪い、家庭も愛情も、何もかもを奪っていった存在でしかなかった。

平等なんて冷たい無慈悲でしかない。神さまは見守るだけで、決して手を差し伸べてはくれなかった。


彼女の信仰心は消えた。




それから気が付くと教会の矛盾を探していた。

特にアガサが興味を持ったのは首都に住んでいると気付かない城壁の外———スラムだ。

首都では、スラムは犯罪が多く治安の悪い危険な場所だと言われている。そこに住む人々は教会の教えに逆らったため、弾圧されながら暮らしているとも。

それは『悪いことをするとスラムへ連れて行かれる』と子どもを戒めるために話したことなのだろうが、逆にアガサの好奇心は掻き立てられた。スラムへ行けば教会から自由になれると確信したのだ。

それがちょうど去年、十一年生のときだった。





今日も彼女は通学路の道を歩きながら、首都を覆う高い城壁をぼうっと眺める。人工資源を造り出す工場から排出される大量の煙のせいで、空はどんよりと靄がかかっていた。


学校へ行くのは億劫だ。義務教育なので十二年間通っているし優等生として学校生活を送ってきたが、本当だったら今すぐ辞めたいくらいにうんざりしている。


寄り道して行こうよ、ともう一人の自分が頭の中で囁いた。今日はその声に従うことにする。

一限はサボってもいいだろう。何か言われたら具合が悪かったと言えばいい。どうせ成績は良好なのだから———



そんなことを考えながら路地に入った。

朝でも薄暗く、路地ということもあり飲食店の裏口が多い。至るところに大きなゴミ箱が置かれていて、残飯や廃棄物が入っているであろう黒い袋が目一杯に積まれている。この光景は少しだけスラムに似ているかもしれない。教科書にこんな写真が載っていたのだ。


そのまま路地を歩く。ふと、通り過ぎたゴミ箱の影に人の姿を見たような気がした。



振り返ると、そこには赤黒い血溜まりを作って青年が倒れていた。


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