38 吹奏楽部コンクール予選(2)
「やっぱり自由曲が決めてだよ」
「最後まで聴いてもレイ君が一番良かったね」
駅までの帰り道、カズ君とそう話しながら歩いた。
やはり去年より評価が良いのはとても嬉しい。ひいき目かも知れないけどレイ君が貢献したと思う。しかし金賞でも本選出場にはならなかった。
「レイ君は最初で最後の大会になっちゃった」
「うん、そうだね」
「私達ももうすぐか……」
運動部も3年生が主体のチームは8月上旬にある大会で最後だ。
「引退したら一気に受験生っ感じだね」
「そう言えばカズ君、前回のテストで西校ライン届いたでしょ?」
西高へ行くと宣言した時からカズ君の成績はずっと上がり続けていた。
「まだギリギリさ。本当に西高へ行けるのかなぁ」
カズ君の表情が少し陰る。
「大丈夫よ、この調子なら」
「うん」
「心配ならお兄ちゃんに見てもらえばいいよ」
「でも……」
お兄ちゃんも来年大学受験だけど、頼めば勉強を見る時間を作ってくれるだろう。
「平気だよ、息抜きになるって言ってたし」
「さすが。中学の勉強が息抜きか」
「学校の先生を目指してるから、いい練習台なんじゃない?」
「練習台? ひどいな~」
口ではそう言っているけど、いつもの優しい笑顔だ。
駅に着いたものの、次の電車が来るまでまだだいぶ時間がある。しかし周辺には私達が入れるようなお店は無く、ホームのベンチで待つ事にした。
カズ君が缶ジュースを買ってきてくれた。
「家で聴くのもいいけど、生で聴くのもいいね」
ホームから小さく見える文化会館を見つめながら、カズ君が言った。
「迫力が違うもん」
「…………」
飲みかけの缶を軽く弄びながら、カズ君は少し黙った。やがてその手の動きが止まり、私の方を見る。
「高校ではバンドをもっとやりたいと思って」
「バンドを?」
「コンテストに出るとか……」
私は驚いてしまった。元々西高を目指すのもバンド活動をしたい為だ。でも今までのように文化祭に出る位だと思っていた。
「野球は?」
「もちろん続けるよ」
「レイ君みたいに無理しないでね」
「うん。でも僕は体力ならレイ君より自信があるつもりだけどな」
この1年でカズ君の身長はどんどん伸びて、しっかりとした身体つきになった。
「オリジナル曲を始めてから、もっとバンドが楽しくなって」
歌はあくまでも野球の次だったのに。でも私にとっては嬉しい変化だ。
「カズ君の歌がもっと聴けるなんて嬉しいな」
「僕も美紀ちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
私が正直な気持ちを言うと、カズ君のいつも優しげに笑っているような目元がもっと細くなった。
「文化祭、楽しみにしてるね」
「ありがとう。絶対いい曲を聴かせるよ」
カズ君は頼もしく断言した。
そのまま話していると、ホームにレイ君のおばあちゃんが現れた。
「おばあちゃん!」
手を降る私達に気が付いたおばあちゃんは、笑顔で近付いてきてくれた。どうやら出場直前に着いてギリギリ聴けたそうだ。
それを聞いてホッと胸を撫で下ろした。




