03
静かなギターのアルペジオが流れる。
そのイントロにファンの悲鳴に似た歓声が上がった。
それを追うように静かに流れる歌声。
更に高く上がった歓声は一瞬にして落ち着く。
そして会場が一つになって歌いだした。
ちょっと緊張してる? でも、高い声はどこまでも伸びやかに。低い声は深く深く……。
この歌はデビュー曲。
客席に誰もいないライブハウス時代も、『THE END LIVE』の時も……どのライブでも必ず歌っていた曲。
曲調が変わった。
一転して激しい嵐のようなドラムソロ。続くギターも荒々しく攻撃的。
だけど演奏の激しさと比べ、歌はバラードのようだ。
穏やかで、優しくて、どこか切なくて……KAZUそのもの。
曲が進むと始めに感じたぎこちなさは、もう完全に感じなかった。
歓声も相まって、会場は本当に揺れている。
よかった。もう大丈夫。12年のブランクを感じさせない、それどころか以前より迫力あるステージに、心からそう思った。
彼らの胸の内には色々あるかもしれないけど、単純に彼らの音楽を聴ける事が嬉しい。 私こそ彼らにお礼を言わなければいけない。
彼らがステージを終えた時、笑顔で……迎えて……。
…………。
目元を指先で軽く触れる。いつの間にか自分が泣いている事に気づいた。
解散後、辛い現実を忘れる為に、ひたすら働いた日々。
再結成という嬉しい仕事でも、必ず成功させなければ……というプレッシャー。
でも彼らの歌で、張り詰めていた心が解けたようだ。
だから涙は拭かずに、彼らの歌を聴こう。もう少しだけこのままで居たい。
まだ、一曲目。
彼らが戻るまでに、涙は十分乾くから。
私は流れる涙をそのままに、その場を立ち尽くしていた。