02
突然スタッフの動きが、さらに慌しくなった。 やっとシステムの不具合が直ったらしい。
彼らもステージの袖に集まって来た。 私が今出来る事は、笑って送り出す事だけだ。
サポートメンバー達がステージに向かう。 口々に「いってきます」と声をかけてくれる。
私も「いってらっしゃい」と送り出す。
KENが手を振りながらステージに向かう。
私も手を振り返して送り出す。
ヘルプの森谷さんも手を振ってくれ、ステージに向かう。
私も会釈をしながら手を振り送り出す。
SCHUは投げキッスしてくれたな。 少し胸の奥が痛んだ。
RAYLAが……レイが近づいてくる。
リーダーとしてずっとトラブルの対応をしていたせいか、すでに少し疲れた顔だった。
そのままレイはステージに……と思ったら、私の前で立ち止まる。
無言で私をじっと見ていたが、目をそらし呟いた。「ありがとう」と。
私は思わず息を呑んだ。 謝罪とか、感謝などの言葉をこの男の口から聞くのは、滅多にないことだったから。
「めずらしい言葉、聞いたな」
「ふふっ……そうね」
後から来たカズも同じ意見のようだ。 その言葉に私は吹き出してしまった。
「バ、バカにするな。言うときは言うさ」
照れている時のクセで、早口で口ごもりながらそう言うと背を向ける。
「ぶっ倒れるまで帰って来ないでね~」
私は笑いながらレイの後姿に声を掛け、送り出す。 その言葉にレイは振り返りもせず、左手をヒラヒラさせながらステージに向かった。
「あいつは……いつもオイシイとこ持ってくなぁ」
「え?」
「なんでもない」
最後に残ったカズは何か言ったようだけど、よく聞き取れなかった。
「美紀」
「なぁに?」
「自分も言おうと思ってた。色々……ありがとう」
そう言うと、子供の頃から全く変わらない優しい笑顔を見せた。
「なに言ってるの。私は私のやるべき仕事をしただけ」
「さすが『敏腕マネージャー』」
「だれかさんは『猛獣使い』って言ったけどね」
「そんなコト言ってたなぁ……」
私が肩をすくめながら言うと、カズは苦笑する。
その後、一瞬沈黙した。 周りの音が聞こえない。 あんなに押し寄せていた熱気も感じられない。
時が止まったようだ。 というより止めていたかったのかもしれない。
彼とはもうこんな風に話せる日は来ないと思ってたから。
「さて、と……」
そう呟きながらカズはサングラスを取り出してかけると、KAZUになった。
「行ってきますか」
「いってらっしゃい!」
KAZUは右手を軽くあげてステージに向かう。
私もあの頃のように手を振って見送った。