08 バレンタインデー
2月14日は土曜日で、学校が終わってお家でお昼を食べるとレイ君の家へ向かった。ピアノを聴く約束をしているためだ。
家を出て門のところで待っていると、カズ君も来た。
「お待たせ。あれ、カバン持ってくの?」
いつもは手ぶらだけど、今日は例の物が入っているカバンを持っている。
だからカズ君は不思議に思ったのだろう。
「まあね。ほら、早く行こうよ」
「うん」
しかしこの場では理由を答えないでおく。カズ君もそれ以上は聞かないで一緒に歩き始めた。
はなれではレイ君が宿題の漢字ドリルを開いていた。
「今日は何の日か知ってる?」
私はさっそく二人に質問した。
「バレンタインデー」
レイ君がすぐに答える。
「知ってるんだ」
「もらった」
ソファーに合わせた低いテーブルに紙袋が置いてあり、中には3個のチョコが入っていた。
「バレンタインデーって?」
カズ君は知らないらしく、そのチョコをポカンと見ていた。
「バレンタインデーはね、女の子が好きな人にチョコをあげて告白する日なの」
私はカズ君に説明する。
「えっ、告白? ということはレイ君……」
「別に……」
私の説明どおりならば、レイ君は3人の女の子から告白されたことになる。3個とも気合いの入った包みで、全員『本命』だろう。
しかしレイ君は嬉しそうでもなければ自慢するでもなく、どちらかといえば面倒そうな感じだ。
勇気を出して渡した女の子達には残念だけど、誰も想いは届かなかったらしい。
「告白かぁ」
カズ君は少しショックを受けているようだ。
「でもね、それとは別に『義理チョコ』っていう、もうちょっと軽い……お礼みたいな感じのもあって」
「ふ~ん?」
私はそう言うと、カバンからごく普通の板チョコを取り出す。
そう。私は『義理チョコ』の話も聞いていて、それを身近な人達全員にあげようと思ったのだ。
それならタカ兄ちゃんにもチョコを渡せる。ズルイかも知れないけど、私にはこれが精一杯だった。
「バレンタインの話を聞いたら、私も参加してみたくなったの」
「こんな女の子っぽいこと、全然似合わな……イテッ」
レイ君が何か言いかけていたので、漢字ドリルで軽く止めておく。
「はい、カズ君」
「ありがとう!」
カズ君はよく分かってないみたいだけど、取りあえず喜んで受け取ってくれた。
「レイ君は欲しくないみたいね?」
「もらっておくよ。そのチョコ好きだし」
引っかかる言い方だけど、せっかく用意したので渡しておいた。
「あとお父さんとお兄ちゃんに……タカ兄ちゃんの分もあるの。カズ君、渡しておいてくれる?」
「うん、いいよ」
カズ君は何の疑問も持った様子もなく、もう一つの板チョコを受け取る。
(ゴメンね)
もちろん二人をキライではないが、タカ兄ちゃんにチョコをあげるための言い訳にしてしまった。
嬉しそうにチョコを眺めるカズ君を見ていると、かなり心が苦しい。
「…………」
レイ君が私に何か言いたそうだったけど、結局カズ君とおしゃべりを始めてしまっていた。




