第9話:真の最初の事件(前編)
それは、真がまだ、Transを飲まされる前の事。更に言えば、中学生の頃で、<かな>とも知り合っていない頃の事であった。
北海道釧路市。
真は一人、旅行へと来ていた。
当初は、弟の大輔も来る筈だったが、家の都合で、急遽一人で来る事にしたのだ。
「此処だな。」
真は、古くてボロい屋敷の前に立つと、そう呟いた。
そして真は、そのボロい屋敷へと入って行った。
中に入ると、真はちょっと驚いた。外装と内装とで、かなり雰囲気が違うのだ。
中は、とても綺麗でしっかりしていて、先ほどのボロ屋敷とは思えないぐらいである。
(まるで別世界みてえだな。)
真は心の中で呟きながら、入り口から正面に見える、カウンターの前に移動した。
「予約をしておいた霧崎ですけど。」
真は、カウンターの向こうにいる、若いお姉さん・・・いや、同年代くらいの、ポニーテールで肌の白い可愛い女の子に言った。
「ちょっと待ってて下さい。」
そう言って、女の子は会釈をすると、奥の方へと入って行った。
それと入れ替わりに、30代前後のおばさんが出て来た。
「予約の方ですね?」
真は首を縦に振った。
「それじゃ、こちらにお名前と住所を。」
そう言って、おばさんは紙とボールペンを渡した。
真はそれを受け取ると、言われた通り、名前と住所を書いた。
おばさんはそれを取り、棚に置いてあったファイルを開き、チェックをする。
「霧崎様ですね。」
おばさんは、ファイルと紙をしまうと、部屋の鍵を渡した。
「お客様は205号室になります。」
そう言うと、おばさんは奥へと入って行った。
「かな、お客さん案内して頂戴!」
と、大きな声が、奥の方から聞こえて来た。
すると、奥から先ほどの、可愛い女の子が出て来た。
この子が、<かな>と呼ばれる子だろう。
「付いて来て下さい。」
かなはそう言うと、真を部屋まで案内した。
「此処ですよ。」
かなは、部屋の前に着くと、真の方を向いて、そう言った。
かなは、鍵を開けると、扉を開けた。
「オートロックになってますので、お部屋を出る際は、鍵をお忘れ無くお持ち下さいね。」
そう言って、鍵を真に渡した。
「あの、ちょっと失礼な事聞くけど、君はまだ中学生だよね?」
「そうですけど。」
「中学生が働いてるって知れたら、まずいんじゃないの?」
「それは問題無いです。
此処は、私の叔父さんが経営しているんです。それで、夏休みの間、人手が足り無いので、お母さんと一緒に来て、お手伝いをしているんです。」
真はそれ聞いて、成る程、と納得をした。
「さっき、カウンターに出て来たのが、私のお母さんですよ。」
「へぇ〜。」
「あ、自己紹介がまだでしたね。
私、高山 かな(たかやま かな)と言います。中学2年です。」
「じゃあ、同い年だ。
俺、霧崎 真。弁護士・霧崎 茂の息子だ。」
「それホントっ?」
かなは信じ難い顔で聞いた。
「本当だよ。」
「じゃあ今度、サイン貰って来てよ。
私、あの人の大ファンなの!」
目をキラキラと輝かせるかなに、
「それは無理。」
「ど、どうしてですかっ?」
かなは真に顔を寄せる。
「うちの親父・・・もう、いないんだ・・・。」
真は俯き、暗くなった。
「ゴメン、嫌な事思い出させちゃった?」
「あ、いや、気にしないで。」
そう言うと、真はさっさと部屋に入って行った。
その日の夕飯、午後7:00。
真は食堂へとやって来た。
食堂はとても狭く、十何人かの席しか無い。
真はその内の一カ所に着いた。
そして真は、目の前に用意された料理を食べ始めた。
―――――食事中―――――
「うっ?うっ、う!」
突然、食事をしていた他の宿泊客が、立ち上がって首を抑え、唸り声をあげた。
(何だ?)
真がそれを見ていると、そいつはその場に倒れた。
「優希、どうしたのっ?」
そいつと一緒にいた女の人が、倒れた人物に声を掛けた。
他にも、何人かが、回りを囲んで様子を見ている。
「ちょっと退いて!」
真は倒れた人物に駆け寄り、脈、呼吸を調べる。
(この匂い・・・。)
真のかいだのは、甘酸っぱい匂い<アーモンド臭>だ。
(青酸カリか。)
「この人、亡くなっています!」
真が言うと、回りにいた人達は、一斉に騒つき始めた。




