第11話:6年前との繋がり(前編)
その日、綾は浩介と一緒に、鉄道博物館に来ていた。
浩介は、小さい頃から鉄道が好きらしく、休みの日には親と一緒に、何時も来ていたと言う。
今日は、そんな浩介の付き添いである。
「綾、こっち来いよ。」
浩介が綾に手招きをする。綾は浩介に誘われるがままに、彼の下に来た。
「あれ、何だか解るか?」
そう言って、浩介は目の前の、柵に囲まれた謎の物体を指差した。
「何なの?あれ。」
「あれは、電車のエンジンだよ。」
成程。よく見れば、エンジンの形をしている。
「このエンジン、普段俺達が乗ってる電車の、床の裏に付いてるんだ。」
「そうなんだ。」
納得する綾。
が、心の中では、
(そんな事知ってるっつーの!)
こんな事を思っていたり・・・。
その時だった。
「きゃああああ!」
と言う、女性の甲高い叫び声が聞こえた。
同時に、綾の<探偵の血>が騒ぐ。
「フロントの方からよ!」
そう言うと、綾はフロントへ駆け出した。
「待てよ!」
と、浩介も後を追う。
綾と浩介はフロントに駆けつけたが、そこには誰もいなかった。
綾は辺りを見回す。
すると、従業員専用通路の扉が、解放状態になっていた。
(さっきは閉まってたのに・・・。)
綾はそう思いつつ、その扉の向こうへ入って行った。
「そこ入っちゃまずいだろ。」
と、浩介が止めるのも無視して・・・。
扉を潜ると、細い通路になっており、その先に数人の人集りが見える。
綾はその人集りに近付くと、
「何かあったんですか?」
と、メガネを掛けた細い顔の若い男性に訊ねた。
その男性は、綾の方を見ると、
「君は確か・・・。
実は、休憩室で、人が死んでるんだ・・・。」
それを聞いた綾は、人混みを掻き分けて、休憩室の中を覗いた。
すると、天井に輪っかを作ったロープを釣るし、その輪っかに首を引っかけ、死んでいる男を目の当たりにした。首吊り体だ。
その首吊り体は、かすかに揺れていた。
綾は時間を確認する。
午後2:30。
「(死んでから間もない。)
警察を呼んで下さい。」
綾の一言で、人集りが騒つく。
「てめぇら静かにしろ!」
綾が叫ぶと一斉に静かになった。
相当迫力があったのだろうか?
「今から、この部屋には誰も入らないで下さい。
それと、警察が来るまで、皆様にはロビーで待機して貰います。」
綾がそう言うと、
「祟りだ・・・。」
誰かがそう呟いた。
「祟り?」
「そうよ!祟りよ!」
「晴子、やめて。」
「と、取り敢えず皆さん・・・ロビーにお集まり下さい。」
綾はそう言って、人集りをロビーに移動させた。
ロビーでは、先程の人達が、静かに椅子に座っていた。
綾は皆に話を聞く事にした。
「第一発見者はどなたですか?」
その問いに、一人の女性が立ち上がった。
その女性は、ロングヘアで、肌が白く、顔も左右対象に整っている。とても美人なお方だ。
「彼方は?」
「桐山 優です。」
と、桐山は頭を下げた。
「早速ですが、桐山さん──遺体を発見した時、周辺で怪しい人物とか見ませんでしたか?」
「いいえ。見なかったわ。」
「そうですか。
他に気になる事は?」
「気になる事?
──そう言えば、鍵が掛かっていたわ。」
「その鍵ってのは、普段は開いているんですか?」
「ええ、開いているわ。
でも、今日は何故か閉まってたのよね。」
「それで、鍵を開けたら、遺体を見付けた──そう言う訳ですね?」
その問いに、桐山は頷いた。
(当時、鍵が掛かっていた──と言う事は、現場は密室だった・・・。)
綾は暫く考え込むと、桐山に会釈をし、去って行った。
綾や再び現場にやって来ると、入り口の扉を頻りに調べている。
(何処もおかしな所は見付からない。
やっぱり、自殺なのか?)
そう思った時、
「You've got mail」
と、綾の携帯が鳴った。メールの着信合図だ。
綾は携帯を取り出し、パカッと開いた。
画面には、<新着Eメール1件>と表示されていた。
何だろう──と、綾はメールの受信箱を開く。
差出人は真だった。
Form:真 <detective.shin@○○○.ne.jp>
Subject:無題
本文:何処で何してる?
綾は返信メッセージを書くと、それを送った。
To:真 <detective.shin@○○○.ne.jp>
Subject:Re:
本文:浩介と鉄道博物館にいるんだけど・・・事件に遭遇しちゃって。現場、密室だったんだ。
すると直ぐに、返事が返って来た。
Form:真 <detective.shin@○○○.ne.jp>
subject:Re:
本文:ドアの鍵をよく調べろ
(ドアの鍵って・・・。)
綾は真の助言通り、ドアの鍵を丹念に調べた。
その鍵は、回転式の鍵で、内側からなら、指でつまんで回せば、簡単に掛ける事が出来る様になっている。
(テグスっ?
成る程、そう言う事か。)
そう思った瞬間、綾がニヤリと不気味な微笑みを見せた。
その時、頭上から男の声が聞こえた。
「何をしてるんだ?」
その声に驚いた綾は、
「うわあっ?」
と、背筋を伸ばし、甲高い奇声を発した。
「綾君・・・何を驚いているんだね?」
男は、また君か──と言う顔で問う。
綾は振り向き様に、
「け、警部さんっ?
脅かさないで下さいよ。」
そう言った綾は、冷や汗タラタラだ。
「汗・・・拭きなよ。」
警部はそう言って、ポケットからハンカチを取り出すと、綾の汗を拭った。
すると綾は赤面しながら、
「あ、有り難う御座います。」
と、礼を言う。
「所で、遺体は何処にあるんだね?」
「医務室で預かって貰ってます。」
「そうか。」
警部は部下の刑事を呼ぶと、医務室へ向かわせた。
「で、<首吊り>だったな。
今回は自殺なのか?」
「いいえ、他殺です。」
そう言って、綾はドアの鍵に絡まったテグスを手に取り、
「これが、他殺だと言う事を物語っています。」
と、警部に渡した。
警部はそれを受け取り、ドアを確認すると、
「テグスか・・・成る程。」
と、独り言の様にそう呟いた。
どうやら、警部も謎が解けた様である。
綾と警部は、ロビーにやって来た。
そして直ぐ、警部は皆を自分の方に注目させ、
「これから、事情聴取を行う。
全員、私の前に集まってくれ。」
全員──とは言っても、たったの5人だけである。
その5人は、警部の前に来ると、一列に並んだ。
「では、貴方からお話を伺おう。」
警部は、桐山 優を指名した。
「お名前を。」
「桐山 優です。」
「では、桐山さん──事件があった時の事を、お聞かせ下さい。」
桐山は警部に、事件当時の状況を話した。
「解りました。
もう結構ですよ。」
警部は桐山を解放すると、
「次は貴方。」
と、彼女の隣いる細長い顔のメガネを掛けた男を指差した。
三枝 俊樹30歳。
事件当時、三枝はフロントにいた。
同僚の三上 晴子が、それを証明。
「ちょっと待って。」
突然、男が声をあげた。
「どうしました?」
と、警部。
「三上と三枝、フロントにいなかったじゃん。」
男が言うと、三上と三枝の顔色が変わった。
「あっ、俺、亀山 大地ってんだけど、この二人、事件の時フロントになんかいなかったぜ。」
「どう言う事ですかな?」
警部が問うと、三上と三枝は、「すみません!」
と、頭を下げると、改めて警部に顔を見せ、
「あの時、私たち、外にいました。
それで、館内に戻って来たら、悲鳴が聞こえたんです。」
「お前ら、またサボってたのかっ?」
と、亀山。
「また──と言うと?」
警部は亀山の方に顔を向けて聞いた。
亀山は三上と三枝の方をチラッと目で見ると、
「こいつら、サボり癖が酷くてな。
昨日も、坂田に怒鳴られてたよ。」
「その坂田と言うのは?」
「坂田 恒吉29歳。
殺される前の日、その二人に怒鳴り散らしているのを目撃されています。」
そう言ったのは、部下の刑事だった。
その刑事の言葉に綾は、
(坂田 恒吉?
何処かで聞いた事・・・って、4年前・・・北海道の事件で、被害者のパソコンにあった・・・。)
「坂田 恒吉──被害者の名前か。」
警部は独り言の様に呟くと、
「その坂田が怒鳴っていたと言うのは、間違い無いんだろうね?」
「「間違いありません!」」
三上と三枝の声が重なる。
「まぁ、本人が言うなら、そうなんだろうが・・・。」
警部は、やれやれ──と言う顔で、そう呟いた。
「警部さん──ちょっと。」
綾は警部に、耳を貸す様頼んだ。
警部はしゃがみ込むと、綾の口元に耳を寄せた。
綾は、警部に4年前の事を話した。
すると警部は、一瞬驚き、
「それは本当かねっ?」
「ええ、本当よ。」
「解った。
至急、魚住君に調べて貰おう。」
魚住──部下の刑事である。
警部は魚住を呼ぶと、例の件を頼んだ。
「解りました!」
魚住はそう言って、駆け足で去って行った。
後編が思いつかない。
てか、犯人誰にしようか?