従姉妹が熱くもない紅茶を自分でぶっかけて騒いだ~竜の番の世界を壊滅させた時戻りの大聖女~
一つ年下の従姉妹のセルジアが、聖女ユシリアの目の前で。
持っていた紅茶を突然自分の制服に勢いよくかけた。
そして、大きな声で「キャー。」と叫ぶ。
そうすると、人通りのなかった学園の大広間から少し離れた廊下に、他の生徒達が叫び声に反応し集まり出す。
「お姉様、酷いわ!酷い。いくら私が嫌いだからって。こんな熱々の紅茶を私にかけるだなんて。」
熱いわ、酷い、と言いビンク色の髪の毛の黄緑色の瞳から涙を流すのだ。
外では聖女と呼ばれ、皆には清らかで優しく振る舞っているのに裏ではこんな酷いわ。昔からお姉様は私をいじめる。目の敵にする。何でも取っていく。
涙を流し肩を震わせながら大きな声で訴えるのだ。
周りに集まり出した生徒達がヒソヒソとし出す。
セルジアの目の前にいるのは、プラチナブロンドに美しい青い瞳の聖女ユリシア。
隣には漆黒の髪と赤い瞳の婚約者モンドがいる。
モンドはユリシアの指一つ一つ絡めていて、所謂恋人繋ぎをしている。
ユリシアのもう片方の手は自身の鞄を持っている。
ユリシアの両手は塞がれた状態である。
にも関わらずセルジアは、セルジアの持っていた熱々の紅茶を取り上げられ突然ぶっかけてきたと主張する。
パッと見ただけでもユリシアがセルジアに紅茶をかけるのは不可能だと認識できるのだが、シルジアは聖女の力は全くないのだが、実は魅了の力を強く持っている。
しかも人の奥底にある嫉妬心を糧に増幅し人を操るというものだ。
心の奥底で聖女の力を羨ましく疎ましく思う心の隙間に入り込む。
一人の女生徒が大きな声で「お可愛そうなセルジアさん。」と発すると黒い染みを落としたかのようにその染みがみるみると周りに広がっていく。
あんなに美しくて清純そうな顔をしているけれど、従姉妹に酷いことをするなんて、ちょっと聖力があるからって調子に乗っているんじゃない?最近は王子にも言い寄っているらしいわよ。何が聖女?とんだ男好きね。
これ見よがしにざわめきの中に、根も葉もないユリシアを貶める言葉が聞こえてくる。
言葉は実際に傷つける武器よりも、時には人を深く傷つける。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
1度目の人生の時は、この出来事がきっかけでどんどんと引き込まれるように転がり落ちるように、。どんどんと悪い方向にいき、遂には王家の家宝のブローチを盗んだ犯人にでっち上げられ、断罪された。
死刑が執行されるその瞬間に、以前封印した竜を呼び、悪落ちした聖女は竜と共に世界を壊滅させた。
この世界を創造した神は、壊滅した世界を創り治すことよりも聖女を時戻りさせることを選んだ。
♢♢♢♢♢♢
ユリシアは隣にいるモンドを、じぃっと見た。
「わかった、わかったよ。」
本当はこんなことやりたくないんだけれど…と、モンドは、そう言うとおもむろに水筒を取り出した。
水筒には、魔法で温度が保たれている熱々の紅茶が入っている。水筒の蓋を開けると湯気が出ている。
モンドは紅茶を目の前にいたセルジアに飲ませた。
美しい男が自然に優雅に紅茶を飲ませてきたものだから、思わず勧められるままに紅茶を飲む。
黄緑色の瞳が一瞬見開かれる。「熱っ!何この熱い紅茶は。」
セルジアがそういうと、モンドは意を決したように、隣にいたユリシアに思いっきり一気に水筒の中の紅茶をかけたのであった。
熱っ……。
声にならない声が出る。制服から湯気が見える。紅茶でびっしょりと濡れている。制服にかけられた紅茶はくっきりと茶色く見て取れた。
先ほどまでの黒い噂話、悪口はピタリと止んだ。
明らかにセルジアとユリシアのかけられた紅茶の跡は全く別物で、かけられたというセルジアの紅茶の後はあまりにも不自然であった。
熱々の紅茶がかけられたと言っていたが、ユリシアのとは明らかに様子が違っていた。
紅茶の跳ねる角度も。飛び散り方が違う、あんなに勢い良くかけたというのにユリシアの袖口には茶色い染みはなく、逆にセルジアとモンドの袖口には茶色い染みがあった。
また、紅茶の跳ねる角度もセルジアとユリシアのそれは全く違った。
それらを突きつけられると、先ほどまでのユリシアに降りかかっていた言葉の攻撃は、綺麗に取り除かれた。
「セルジアさんの自作自演では?」
何処からともなく他生徒から言葉が発せられる。周りにいた者も皆それに同調する。
「何故?少しでもあんなに良い人。聖女を疑ったのであろう。」「この前、授業で怪我をした時も快く治癒してくれた、優しく微笑んでくれた。」
街中でも見知らぬ子供を治癒しているのを見たことがある。分け隔てなく優しい聖女を何故?
遂には何処からともなくこんな声も聞こえてきた。
どちらかと言うとセルジアさんの方のが、問題あるのでは?異性には媚を売ったり可愛い子ぶる。同姓には意地が悪い。
きっとセルジアさんが難癖をつけたに違いない。
あの子の自作自演だ。
となった。
セルジアは真っ赤な顔をしてすごすごとその場から消えていった。
♢♢♢♢♢♢♢♢
学園の端の方のベンチで。
ユリシアに跪き、治癒魔法をかけた後であるのだが、必死に氷魔法で冷やしてくれる。
「すまない。できるだけ直接紅茶が掛からないようにしたのだが。」
「私が決めたことだから。」
「嫌な役回りさせてごめんね、ありがとう。」
火傷は治癒したが心は痛いだろ?
せめて気休めでも冷やさせてほしい。
冷やしてくれた所がヒヤッとして、さっきまでの高ぶっていた気持ちが落ち着いてきた。
白く細い手で黒い髪の毛を撫でる。
紅い瞳が上目遣いにこちらも見てきた。私の事を思いやりとても心配している眼だ。
一回目の人生から変わらない。出会った時は大きな竜だったけれど。
モンドは竜だった、一回目の人生で封印した竜。そして、私が断首される寸前に呼び寄せた竜。
封印されようが、番が助けを求めてきたのだ、何としてでも助けると駆けつけてくれた。
私に寄り添い、世界を壊滅に追いやった私の愛しい竜。
モンドは私の手にキスを落とした。
また一つ、一回目の人生の問題を乗り越えた。
自分が無慈悲に断罪されたからといって、世界を壊滅さるのはやり過ぎた、関係ない者も巻き込みすぎたのだ。
私は美しい黒髪を触りそこにキスを落とした。
一回目の人生よりも、この美しい竜が幸せでありますように。
今度こそは私が世界を壊滅させませんように。
短い連載を書き上げた後に勢いで短い短編を書いてみました。私が思う嫌な相手役の嫌なシチュエーションと私の考える好きなキャラクター達の物語を執筆いたしました!
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