レッドドラゴン
…しまった迂闊だった。
ドラゴンうさぎの子供たちの鳴き声が大きくなっていたのは、ただ父親を殺された悲しみだけではなく、ドラゴンの谷の主を呼び寄せるためだったのだ。
胸糞勇者に苛立ちを覚えている間にすっかり冷静さを失っていた。
…全くらしくない。
「おい!アレは何だ?」
驚きと焦りが入り混じった表情で上を見上げながら、胸糞勇者様が私に訊ねた。
「見ての通りドラゴンです」
と冷たく対応する。
「そんなことは見て分かる!俺が訊いているのはアレは一体何のドラゴンなんだと訊いているんだ!」
その質問に思わず呆れて言葉を失う。
お前の愚かな行為によって、呼び寄てしまったこの谷の主だよ…
出来れば出くわしたくはなかったのに…
思わず深いため息が漏れた。
「おい!訊いているのか女!?」
胸糞勇者様が苛立ちながら吠えた。
「…この谷の主であるレッドドラゴンですよ」
冷ややかにそう答えた。
「レッドドラゴン…」
私の返答に思わず胸糞勇者の表情が強張った。
どうやら名前はご存知のようだ。
「そんなものがいるなんて俺は聞いていないぞ!どういうことだ!」
胸糞勇者が怒りを私にぶつけてくる。
「どうもこうも、この谷を訪れるということはレッドドラゴンの存在を知っていることが前提です。少なくとも村の人々はそう思っていましたよ。ドラゴンの谷に行くとは、なんて勇敢な勇者様なんだと」
私の説明に胸糞勇者様が顔をひくつかせる。
「くっ…!」
私の言葉に何も言い返せなくなった胸糞勇者様が再びレッドドラゴンを見上げた。
「ちっ!やるしかないな。この勇者アルテガ様を舐めるなよ…!」
そう言って、胸糞勇者様が手を組んで魔法の詠唱を始めた。
胸糞勇者の両手が赤く光りだす。
その光の色に嫌な予感がした。
「上級魔法の威力を思い知るがいい!バーニングブラスト!」
そう唱えた瞬間、胸糞勇者の手から赤々と燃える炎が舞い上がり、レッドドラゴン目掛けて上昇していく。
そして、レッドドラゴンに炎が当たったと同時に激しい爆発が起こる。
たちまちレッドドラゴンが爆炎に包まれていった。
「どうだ!見たか女?このアルテガ様の実力を!」
胸糞勇者が私にドヤ顔を向けてきた。
私は今、どんな顔をしているのだろう?
鏡があったら見てみたい。
私は何も言わずにスッと右手を上げて、上空を指差した。
「ん?」
胸糞勇者が私の動作を見て、同じく上空を見上げた。
やがて爆煙が薄れていく。
そして、爆煙が完全に晴れる前に上空を見上げていた胸糞勇者の表情が絶望へと変わった。




