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鏡の中の姉(あね)に会いにゆく ―アーミッシュの少女の日本滞在記―  作者: 白山月


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第二章:偽りの星空と、西への指針

成田空港の自動ドアが開いた瞬間、レイチェルが最初に感じたのは、

刺すような「電気の匂い」だった。


窓ひとつない通路に降り注ぐ、暴力的なまでの白い光。

それは太陽の暖かさを持たず、ただ冷徹に、そこにあるはずの影を消し去っている。

数分おきに響く無機質なアナウンスと、何百人もの人々が放つ摩擦音。

馬の蹄が砂利を叩くリズムも、風が麦穂をなでる吐息も、ここには存在しなかった。

(……お姉ちゃん、私はどこに来てしまったの?)


彼女は胸元のコーフ(帽子)の紐をきつく握りしめた。

ここは、神が作った世界を人間が電気で塗りつぶした、巨大な「箱」の中のようだった。


さらに、奔流のような人の流れがレイチェルを圧倒した。


ペンシルベニアの小さな村では、誰かとすれ違うときは必ず相手の目を見る。

知っている人か、知らない人か。会釈をすべきか、挨拶を交わすべきか。

それは人間として当たり前の、静かな礼節だった。

だが、ここでは顔を判別する暇もないほどの数、そして速度で、人々が横を通り過ぎていく。

処理しきれない情報の群れに、脳が、無意識の状況判断が追いつかない。

(日本人は、この人の多さの中で、これほど高度な判別を瞬時に行っているというの……!?)

実際には誰もがお互いを見ていないだけなのだが、レイチェルにはそれが「超人的な能力」のように思えた。

「……わたし、無理かも」

ポツリと漏らした独白は、誰に届くこともなく、駅へと急ぐ群衆の足音にかき消された。


圧倒的な人工のエネルギーを浴び続け、レイチェルのストレスは限界まで上昇していく。

この国は、あまりにも異質すぎた。


その時、彼女は震える手で、胸元に隠していたボロボロのメモを取り出した。

そこには、村の友人が必死に調べてくれた、唯一の手がかりが記されている。

『兵庫県明石市 ―― 菱崎重工・明石製作所。そこに、彼女の心臓がある』


明石。 聞いたこともないその地名は、ここからさらに西へ数百キロも離れた場所にあるという。

彼女の手元にあるのは、慣れない日本円の札が数枚と、アーミッシュとしての強い信仰心だけだ。


(あの日、お姉ちゃんは空から私を見つけてくれた。今度は、私が地面を這ってでも、あなたを見つけ出すわ)

古風なドレスを着た彼女を、周囲の人間が奇異の目で見つめる。だが、レイチェルはもう怯まなかった。 「明石」という、希望とも呪いとも取れる地名を何度も心の中で唱えながら、彼女は自動券売機という名の「鉄の怪物」の前に立った。


たとえここが異質であろうが、耐えがたいストレスに晒されようが、関係ない。

私は日本人になるために来たのではない。お姉ちゃんを、家族を、治しに来たのだ。

レイチェルは、自分の中に眠る不屈の意志を再確認した。


鏡のように冷たい自動ドアの向こう側、彼女の「巡礼」が本格的に幕を開けた。


こういうの日本語でなんていうんだっけ。猪突猛進?優柔不断?


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