謁見するは太古の魔王
「カキア、バフを」
「わかりました」
大きく息を吸い、そして吐く。額には汗が伝い、ピリ付いた空気が俺達の間を流れる。
「行くか」
魔王城へ。
暗雲が空を覆い、呻き声のようにも聞こえる風鳴り音が心を蝕む。いるだけでSAN値が削られていきそうだ。
城の外にいてもわかる。強大な力の気配。
魔王を、倒すんだ。
その凶々しい城門を開け、俺達は城に入った。
入ってしまった。
「なあゴルト。ここって魔王城だよな?」
「⋯そうだろうな」
俺達の足音だけが響く城内。
濃い魔力で満ちたこの空間は、何の気配もない。
更に⋯。
「綺麗すぎるのだが⋯⋯!?」
「そうだな」
純白!まさに純白!表しようがないほど純白!
床と壁の間の、あの90度の部分にすら埃一つない。あそこ地味に掃除するのむずいのに。
「っていうか魔王城がこんな綺麗でどうすんだよ」
外はTHE魔王城だったのに中に入れば王城よりも綺麗だ。でも、まあ。そんなことに呆けてる場合じゃない。
「悔菜、ユーサ。索敵に反応は?」
「相変わらず無いよ」
「こっちも」
「カキアの魔力察知には?」
「ここの魔力が濃すぎて分かりません」
魔物は、魔力で出来ている。おかげで弱点属性があり、魔力を持つ攻撃を嫌う。その性質上、魔力が濃い場所には魔物が異常発生したり、強大な魔物が生まれる可能性がある。
だが、ここには何もいない。
そう、何もいないのだ。
俺達が今まで見てきた場所の中で一番魔力が多いのに、魔物が一匹いない。どういうことだ?
疑問が俺の頭の中を支配した時。
悔菜とユーサが動きを止めた。
「どうした?」
問いかけに応えた悔菜の顔は真っ青だった。
「⋯ごめん。シュウサ君」
悔菜は一度顔を下に向けた後、ゆっくりとこちらを向き直した。その顔は、泣き笑いのような⋯。
「しくった」
赤い血しぶきが、俺の視界を埋め尽くしたのと同時。俺は、俺達は悔菜の言葉の意味を初めて理解して、この状況を知った。
一言で表すのなら、絶望。
補足できなかったのだ。悔菜とユーサの索敵、気配察知にも、カキアの魔力察知にも。
魔王を、捉えることは出来なかった。
「はじめまして。勇者パーティの皆さん」
前世で見たような長袖のYシャツに、黒のスラックスを身に着けた女。こちらを見る瞳の色は黒く、見ただけじゃ人と変わらない。
だが、纏う気配の質が違いすぎる。
目の前にいるのは一人なのに、千を軽く超える気配がする。そして俺達の生態察知から一つの気配が消えた。
「悔菜」
心臓があったであろう場所に、ぽっかり空いた大穴。その瞳にはなにも映していない。
死んでしまっているのが一目でわかってしまう。
「こんにちは。いえ、こんばんはというべきでしょうか。魔界は常に夜ですから」
魔王は、右足を後ろに回し軽く膝を曲げ、無いスカートの裾を掴むような仕草をした。
「はじめまして。私の名前はギイナ・ミリス。御存知の通り、魔王です」
「お前。悔菜を――」
「食事の支度をしてあります。さぁ、どうぞ」
曇りない笑顔でギイナと名乗ったそいつは、俺達を食事に誘ってきた。先程、仲間を殺したというのに悪意どころか善意まで感じられるその声色に憤りを通り越して驚いた。
悔菜からもらったコガレテがミシリと音を鳴らす。いや、落ち着け。
「なんで悔菜を殺した?」
そうだ。
悔菜を殺した理由だ。今、ギイナは友好的だ。
少なくとも、俺達と敵対する気はない。
それなのに俺達と敵対する理由を自ら作った。
なぜだ?
「なんで、ですか。う〜ん。言葉で表すのは難しいですけど⋯⋯簡単に言えば、この世界にいちゃいけないから⋯⋯ですかね」
おどけて笑ってみせたこいつに、どうしようもないほどの黒いドロドロとした感情が込み上げてくる。
「この世界にいちゃいけないって、どういう意味だ?」
ここが分水嶺。返答次第で⋯⋯―――
「知らなくていいですよ。そんなことよりほら。食事が冷めちゃいますよ」
よし、決めた。
「みんな。フォーメーションCだ」
フォーメーションC。
相手の速度がこちらよりも速い場合に対する防御形態。
カキアが即座に結界を練る。ユーサがそれを影で補強。ゴルトが自身にありったけのバフを掛けていく。
「⋯⋯」
ギイナは少し驚いたような表情をした後、悪戯な笑みを浮かべる。
「少し、遊びましょう」
勇気ってなんだ。無謀に立ち向かっていくことか?みんなを安心させて鼓舞するものか?
少なくとも、仲間の仇を見逃すことではないはずだ。
ならば勇者として、シュウサ・グレイスとしてするべきことは何だ?決まってる。
「魔王ギイナ・ミリス、お前を倒すことだ!」
実験体001:空腹による暴走、人格の乖離を確認。
現在は魔王として活動中。




